かたゆき

ザ・ウォークのかたゆきのレビュー・感想・評価

ザ・ウォーク(2015年製作の映画)
4.0
1974年、ニューヨーク。
完成間近の世界貿易センタービル、通称ツインタワー。
当時世界最高の高さを誇ったこのビルで、誰にも成しえない偉業を達成した男がいる。
男の名は、フィリップ・プティ。自称・世界最高の綱渡り師だ。
そう、彼はその2つの超高層ビルの屋上にワイヤーを張り、命綱なしで横断することに成功したのだ。
本作は、彼とその仲間たちによる狂気と紙一重のそんな無謀な挑戦をスリリングな映像で描いた超一級のエンタメ映画だ。

ストーリーは極めてシンプル。
エンドロールを迎えるまでの2時間強、この世界最高の危険な綱渡りを彼が如何にして成功させたのか、そこにどんなドラマがあったのか、ただその一点のみを描いている。
偉業と言えば聞こえがいいが、彼らがやっていることは完全に犯罪行為。
成功したからよかったものの、もし仮に彼が転落したりワイヤーが切れて窓硝子を割ったりでもしたら下手をすれば死人だって出たかもしれない。
ただでさえ忙しい警察の業務を妨害したことも当事者にとってはたまったものじゃないだろう。
でも、僕はそれでも彼らに成功してほしいと応援せずにはいられなかった。
決行当日、様々な困難に出遭い一時は失敗を覚悟しながらも不屈の闘志でもって2つのビルにワイヤーをかけようとする彼らに、「それだけの情熱があるなら、もっと社会にとって有意義なことに活かせよ!!」という突っ込みなどまるで風に流される青空の白い雲のように霞んでしまう。

ただ自分を待ってくれている人に心の底から楽しんでもらえたらそれでいい――。
彼の無謀な情熱は、どこか映画作りのそれと似ていないだろうか。
一人の男の馬鹿げた挑戦を最新の映像技術を駆使して何ヶ月、時には何年もかけて一本の映画に仕上げてしまうスタッフ及び監督の情熱とそれは根本的なところで繋がっている。
フィリップと、稀代のエンターテイナーとして常にハリウッドの第一線を走ってきたロバート・ゼメキスの思いがオーバーラップするからこそ、観客である自分は思わず心揺さぶられてしまうのだ。
クライマックス、ビルとビルの屋上にかけられた1本の弱々しいワイヤーの上へとフィリップが最初の一歩を踏み出すときの緊張感は、きっと映画が公開される直前の監督の緊張感と通じている。
まさに、エンターテイメント・ショー。
お金を払って観に来てくれた観客に最高の時間を過ごしてもらいたい、そんなゼメキス監督の表現者としての矜持に僕は最大限の賛辞を贈りたいと思う。
かたゆき

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