鹿江光

グラスホッパーの鹿江光のレビュー・感想・評価

グラスホッパー(2015年製作の映画)
2.0
≪40点≫:群衆の中に紛れる凶暴性。
文字通りの意味で捉えるならば、「映像化不可能」なものは、おそらく存在しないだろう。それが起承転結の物語という形をしているのであれば、映像に変換していくことは可能だ。
では、映像化すれば、その物語は完成するのか。質問を変えるならば、Aという物語を映像化して生まれたBは、果たしてAと同じと言えるだろうか。答えは歴然である。AとBが同等であるならば、小説が存在する必要はない。
そんなこんなで、伊坂さんの『グラスホッパー』が映画化。別段期待はしていなかったが――正直それぞれのキャラクター像は想像以上だったので、その点については期待していた――やはり小説に込められたメッセージを全て映し出すのは不可能だ。
映画版はただのクライムサスペンスになっている。非常に残念だ。雰囲気で推している所があり、どうしたって鯨や蝉、鈴木たちに全力で共感ができない。
鯨の苦しみ、蝉と岩西の掛け合い、鈴木の凶暴性、押し屋の圧力、家族との関係、殺し屋同士の絡み、そして「雀蜂」……とにかく足りないものばかり!!原作を知っている者なら、いや、原作ファンであるなら声を大にして言うだろう。「こんな安っい話じゃあないっ!!」
原作は、始めから終わりまで、壮大な仕掛けによって動いていく。それは読み終わった後に、洪水のように衝撃が流れてくるような仕掛けだ。もちろん要所の人間性やメッセージも魅力たっぷりに描かれている。そして何より、鈴木の中で蠢く群衆の中のグラスホッパーの様が、大きな「騙し」の中で描かれている。結果として、誰が残り、誰が死に、誰が狂っていったのか……それは文字を通してでしか表現できないものだ。
物語舞台のイメージはこの映画を参考にしてもいいだろう。だから、とにかくこの映画に満足しないで、原作を読んでほしい。文章を通して、凶暴になっていく虫たちの羽音を、ぜひ感じてほしい。
鹿江光

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