ノラネコの呑んで観るシネマ

くちびるに歌をのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

くちびるに歌を(2015年製作の映画)
3.6
いい話だと思う。
しかし私的な不幸は、「幕が上がる」に似過ぎていて、どうしても観ながら比較してしまった事。
田舎の学校、部活の芸術、Uターンのスペシャリスト教師。
丁寧に作られた本作には心動かされたけど、あの圧倒的な創造の熱とカタルシスは無い。
簡単に言うと「幕が上がる」は部活“ばっかり”やってる映画で、キャラの葛藤も演劇と演劇人としての生き方に集約されてる。
対して本作のキャラの葛藤は全て合唱とも学校とも無関係で、夫々の家庭の問題。
ガッキー先生にしてもピアニストであって歌手ではない。
教師も生徒もバラバラに深刻な葛藤を抱え込んでて、全てを描こうとして結果全体が薄味になった。
彼らの葛藤がクライマックスに収束せず、唐突に明かされる外的要因に頼っているのも疑問。
名曲と回想多用で感動する様に出来てるが、物語的には有機的に繋がっていない。
いや、別に葛藤がバラバラでも良いけど、ならばもう少し取捨選択するなり、尺を伸ばすという方法はなかったか。
あと皆でモノを創り上げるプロセスが弱いので、例えば何故「手紙」という選曲なのかや、男声と女声で世代を表すというアイディアは生徒たちでドラマを作っても良かった。
この映画を「幕が上がる」より前に観ていたら、もう少し印象は良かったかもしれない。
だが喜安浩平の見事な仕事を見てしまうと、これもベターな脚色があるのでは?と思ってしまう。
勿論、ある意味“振り切った”あちらより、オーソドックスな本作が好きな人も多いだろうが。