このレビューはネタバレを含みます
待望のスコセッシ監督最新作ということで観てきました。
スピリチュアルな題材を扱った作品ということで取っ付きづらいのかなと思っていましたが、監督が繰り返し描いてきた作家性が全面に出ている意欲作でとても面白かったです。
スコセッシ監督の映画は、
世間からズレた独自の価値観や信念を強固に信じ込む主人公たちが、己の生き方を貫き通すがゆえに苦しみ、最終的には世俗の価値観に飲み込まれていく
という話をいつも描いていると思っています。
今作ではそれが物凄く分かりやすい形で作品になっており、スコセッシ監督の映画はこういうものだ、と改めて再認識できる内容となっていて面白かったです。
主人公のロドリゴは、キリスト教への強い信仰心がもたらす死と苦しみと虚無感を目の当たりにする一方で、キチジローのように身命を賭す覚悟のない弱い信者がフラフラと生き長らえる現実を見て、信仰心が揺らいでいきます。
こういう事ってとても普遍的で、日常生活でもよくあると思うんです。
例えば恋愛なんかで他の男が女の子に要領よくポイントを稼ぐ一方で、自分は変なプライドとか倫理観のようなものが邪魔して何も出来ないみたいなことってあるじゃないですか。自分は何百回とありますw
ちょっとセコい話になっちゃいましたけど、そういう良く言えば信念を曲げない、悪く言えば頭が硬く世間に順応できない不器用な人間が、ふと感じる普遍的な不条理みたいなものが根底にあるので、スコセッシ監督は信用できるし面白いんだなぁと感じました。
話だけでなく要所要所でスコセッシカラーが出ているところもあって良かったですね。
特に加瀬亮が斬首されるシーンなんかはマフィア映画のそれですよね。
呼び止められて世間話で談笑してたらいきなりのバイオレンス展開で不覚にも笑ってしまいそうになりましたw
それを牢屋の中から覗き込み無力感を演出する撮影も的確で良かったです。
撮影といえば今回はあまりトリッキーな構図のカメラワークはなく、日本の原風景をそのまま収めようとする感じで好感が持てました。特に土の表現は力が入っていましたね。
役者陣も違和感を感じない素晴らしい演技をされてましたね。特に塚本晋也のモキチの説得力はハンパなかったです。
強いて言うなら水面にキリストの顔が写り込むとか、イエスの声までモノローグで聞こえてくるとかの演出は過剰かと思いましたが、あの演出があるから劇映画としてのバランスを取れているかもしれませんので、野暮というものでしょう。
スコセッシ好きにはマストな一本ですが、ビギナーにも挑戦して欲しい力作です。