近藤真弥

沈黙ーサイレンスーの近藤真弥のレビュー・感想・評価

沈黙ーサイレンスー(2015年製作の映画)
4.1
バフチン的な意味での“対話”がなき世界だからこそ起きた悲劇、といえる内容だと思います。それを象徴するのは、劇中でたびたび描かれるロドリゴと井上の議論でしょう。共に自らが信じる正しさを持ち、だからこそ井上は日本をわかってないと言い、ロドリゴはキリスト教をわかってないと返す。対話してるように見えるけど、そこに相互理解がないのは見逃せないポイントだと思います。

原作との違いで特に目を引くのは、映画での井上が元キリシタンではないということですかね。ゆえに僕は、ふたつの全体主義がせめぎ合ってるように見えました。対話なき世界の恐ろしさが原作以上に強調されてるのは、果たして偶然なのだろうか?ってのはどうしても考えてしまう。多くの犠牲によってロドリゴはその傲慢さが1枚1枚剥がされていくけれど、同時に剥がしていく者たちの傲慢さも浮き彫りになっていく。

また、劇中の死のほとんどが庶民というのも興味深いですよね。キリシタンを殺していく日本が暴力的なのはもちろんのこと、ロドリゴも他者の命という犠牲のうえで信仰を守ってる点では、見殺しにしてるとも言えるわけで。ふたつの巨大な信念が戦ってるなかで、死んでいく者の多くは庶民というのは、なんだか戦争みたいで心に刺さりました。
近藤真弥

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