こえ

沈黙ーサイレンスーのこえのレビュー・感想・評価

沈黙ーサイレンスー(2015年製作の映画)
4.6
17世紀初頭のポルトガル人宣教師にとって、当時の日本(江戸初期)はさぞかし未開の、謎の地と映ったことだろう。「本当に彼らはキリスト教徒なのか?」という初っ端の疑問は実際思ったに違いない。しかしすぐにわかることだけど、彼らの暮らしは信仰そのものだ。信仰を知られれば死が待っているという現実の中で、それでも神を、主を信じ続け、生きること自体が苦しみの世の中を生き続ける。
なぜこれほどの苦しみを生きなければならないか。どれだけ問うても沈黙し続ける神を、なぜ彼らは信じ続けることができるのか。いや、だからこそ信じられるのだろうか。信じるってそういうことなのかもしれないな、と思ったり。
自分を守るため、幾度となく踏み絵を踏み、十字架に唾まで吐いたキチジロー(窪塚洋介はまり役!)の、どうしようもない愚かさこそが、一番わかりやすい、主が救うべき人間像だというのも面白い。
それでも踏み絵を踏みきれずに死んでいった人々がいたことも事実だ。彼らは死に際に、役人たちの前で賛美歌(?)を歌いながら死んでゆくのだけど、逆に信仰を公然にできないまま生き続ける人々と彼らはどちらがキリスト教徒として幸福だったのかと考えてしまう。
そしてこの作品のすごいところは、キリスト教徒=いいもん、役人=悪いもん、という簡単な図式ではないところ。当たり前の話だけど、すべての人には生まれてから今までの人生があり、価値観や正義がある。一人として人間でない人間はいない。そういう「人間」が描けているのは、原作と監督のすごさだろう。今、これほどにまで人間が描ける作家はいるだろうか。
大好きな原作をスコセッシが映画にしたのだから、よくないわけがない。大袈裟じゃなく、すべての人に見てほしい映画です(観客がぼくを含めて4人という信じられない現状だったので)。
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