Lou

やさしい人のLouのレビュー・感想・評価

やさしい人(2013年製作の映画)
4.0
ギヨームブラック特集3日目は『やさしい人』。主人公は監督のお気に入りなのか、またまたヴァンサンマケーニュが務める。今作ではかなり印象が変わり女っ気なしのオタク感が拭えない彼とはかけ離れた人物像であった。

かつて小さくない成功を収めたもののミュージシャンとして世間の関心を失いつつある主人公マクシムは父のいる実家に戻る。そこで記者の若い女性メロディと出会って2人は恋仲となり......中盤にかけては楽しげな雰囲気であったが、突如として彼女がマクシムの前から姿を消してしまうことをきっかけに物語は急展開を迎える。

主要登場人物は多くないが、それぞれの関係性が絶妙である。

メロディ
「私には好きなことを追う勇気は無い」
「どうせ次の冬には別れていると思っているんでしょ?」
「ただでさえ自己嫌悪なのに批判されたくない」
「2人ともただ私を所有したいと思っているんでしょ」

父親
「お前(マクシム)は批判してばかりで理解しようとしない」
「あの時間(年下の若い女と浮気していたこと)は私にとって大切なものだった。誘拐とも言えるものだったかもしれないが」

イヴァン(メロディの元彼)
「(マクシムに対し)ロリコン野郎め。同年代の女と付き合え」
「お前(メロディ)と子供を持ちたいと思っている」


特にメロディの自己矛盾は相当なもので、後半では強行に及ぶマクシムに集中しがちだが、冷静に考えれば大部分の原因は彼女だと思う。しかし何故か彼女を責める気持ちは起こらないのは、実際の行動はともかく、彼女の抱える悩みの普遍性がどうしようもなく共感と同情を誘うからだろうか。

ミュージシャンの主人公、そして出会った"メロディ"という名の女性。反復記号に従うかのように同じ場所をそぞろ歩くカット。ラスト前の、浮気による母親の死が原因で敬遠していた父親とのコーラスの場面。音楽というモチーフをミュージカルとは違う形で映像表現した本作。やさしい人は誰か?そもそもやさしさとは何か?考えさせられる。
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