まこぞう

夜の片鱗のまこぞうのレビュー・感想・評価

夜の片鱗(1964年製作の映画)
4.2
チンピラに騙され情婦にされてしまった女工が、まるで映画のように堕ちていく。その純情さと比例して、堕ちていく闇の深さはどうしようもないものに…。
という素晴らしい映画に出会いました!

あらすじを聞いただけでは、ありがちな破滅物語だけど、そのありがちな話に説得力をもたせたこの映画はすごい! 今となってはアホな人からは女性蔑視とも受け取られかねない題材ながら、女性どころか、人間なら誰しもが持つ、理屈では説明出来ないサムシングを見事に描いている。

この映画での桑野みゆきは久我美子と松嶋菜々子を足して2で割った感じで大変よろしい。お知り合いになりたいタイプ。

ケイ子役の広村芳子という女優がセレブスのヴォーカルNICOさんにそっくりだった。

平幹二朗のどうしようもない屑っぷりを観ている我々がそこまで憎めないのも、それは我々が持つ弱さを体現しているからだと思った。ふとした拍子に表に出てしまいそうな弱さ。平幹二朗のベストアクトかも。

対して、悪い奴より悪い奴な鬼畜、木村功は酷い。彼の出演シーン(輪姦)は海外なら今でもカットされるかも知れないけど重要なシーン。

セックスをするだけしといて、この生活には救いがないと言い出す客・園井啓介は真っ当なことを言い過ぎて偽善にしか見えないし、実際のところネクタイに象徴されるように他の客(ギラギラおやじ)となんら変わりがない。

平幹二朗が不能になって立場が逆転してからのあのラストは桑野みゆきが牝カマキリ化したのかとも思ったけど、堕ちるところまで堕ちた彼女はもう救いなんて断ち切りたくて起こした行為だというのが正解のような気がする。
現状に絶望して諦めた訳でもなく、ヤケクソになった訳でもなく、ただ、どんなに堕ちても救われたいとは思わないだけなのだ。
その点でこの映画が言いたいことはアベル・フェラーラの傑作『ハニートラップ』と通ずるものがあるように思いました。
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