まっつん

野火のまっつんのレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
4.3
塚本晋也の執念がこれでもかと詰まりまくった傑作でした。何かときな臭くなる昨今こういう映画があることに少し救いを感じます。

まず本作は塚本晋也の完全自主制作で作られています。どこも出資金を出してくれる映画会社かなかったと。この事については本当にですね....情けない気持ちになりますよね。この映画に出資しなかった映画会社は恥を知るべきです。「永遠の0」みたいなケツ舐め映画には金が集まるのに、なぜ「野火」には集まらないんだ...

しかし結果的には自主制作という体制がかなりプラスに働いたと思います。まず画面が観る人によっては安っぽくて如何にもデジタル然としたものなんですが、そのデジタル然とした自然のむき出し感が非常に怖いし、一種映画的な劇的さを排していて「ここで生きていくのはちょっと...」と思わせてくれるわけです。

さらに観てる側はいきなり状況にドンっ!と放り込まれて否応無しに映画に引きずり回されていくという感覚が多くの方々が指摘している通り大傑作「マッドマックス 怒りのデスロード」的だなと思いました。

本作は主人公、田村を通して人間が人間でいられなく境目とは何かという事について語っているように思いました。そこを越えてしまうことで人間は肉体、精神共にどのように変化してしまうのかという話ですよね。彼は自分だって死ぬほど腹が減っているのに人のためにイモを分け与えるような人間として描かれています。そんな彼でも例え一度でも人間と人間じゃないものとの境目を越えてしまったら二度とは戻れないのです。

さらに田村は完全に良い人物として描かれてるわけではなく、彼に加害者性を背負わせているのが大きいと思いました。というか戦争参加者全体の加害者性に真摯に向き合っていると思いました。

また人間と人間じゃないものの境目と、そこを越えることでの変化についての映画なのでグロ描写は絶対必要だったわけです。誤解を恐れず言えばさっきまで生きていた人間が一瞬にして「モノ」と化してしまう。

政治的思想はともかくこの映画を観たら絶対に戦争なんか起きちゃいけないし、行きたくないと思うのはとにかく正常な反応だと思います。