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野火のmashitakeのレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
4.0
この映画の中にある、たくさんのよかったと思う点から1つ挙げます。

極限状況や究極の選択を描く物語で
「人が追い詰められる表現を、そんなに目に見えて奇異で大きな反応にしちゃう?」とか、
「そこまで状況が進んでおきながら、そこでころっと良さげなこと言わせちゃう?」などの、
作り手の想像の枠内での決めつけや悪い意味での安心安全印と思えるものを見せられると、一瞬にして残念な気持ちにさせられます。あくまで僕の主観ですが。

この塚本晋也監督の『野火』は、そんなシーンが全くなく、自分の中には普段発見できない感情なのに「そうなるかも」と何重にも納得しました。

田村は最初は自分でものを考える力もなく、流され、生きる気力もないような人間に見えます。
しかし、死を選ぶこともせず、かと言って生きるためなら人間性を捨ててもいいとは思えず、恐れ、反省します。
状況に身を委ねきったりはせず、自分で考え正当な理屈のもとに選択する、立派とは言わないまでも賢くまっとうな人間です。

ところがです。「自分は変わっていない」と思っているのに、気付かぬうちに実はずいぶん遠いところに来てしまっている、逸れてしまっているという状態こそが精神の異常事態なんだとはっと気付かされたのです。
僕自身途中まで田村の変容に気付かず、
「彼は彼の理屈のもとに動いている」
「大丈夫」
「わかるわかる」
「まともまとも」
「あれ?」
この瞬間ぎょっとしました。
まわりの環境が少しずつ変わっていったとき、自分も危ないなと本当に思いました。
この瞬間があったことだけでもこの映画を観ることが出来て本当に良かったです。

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