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野火のRのネタバレレビュー・内容・結末

野火(2014年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

実家で鑑賞。

2015年の戦争映画。

監督は「KOTOKO」の塚本晋也。

話は第二次世界大戦の末期、フィリピンのレイテ島。結核を患い、部隊を追い出された田村一等兵(塚本晋也)はレイテ島の戦地の過酷さを目の当たりにするというもの。

プライムにて鑑賞。

多分「秘宝」で初めて知ってから、公開後のフォロワーの方々や宇多丸さんの絶賛の評を聞き、気になって。

初めて知った時はまだ公開時期が定まっておらず、そればかりか制作費も集まらない状況だったことを知っていたからか、先入観を抜きにしても、大変苦労したであろうことがすごく伝わる。

まず、カメラの画質。

これは映画の画面じゃなくてテレビとかに近いのかな?

なんつーか、映画っぽくない。

そればかりか、塚本晋也自身が演じる田村一等兵の視点から見る戦地を淡々と描く序盤は一種ドキュメンタリーっぽくて正直初めは辟易してしまい、断念しそうになった。

よく見ると死体の特殊メイクもそれほどリアルな感じではないし、登場人物も田村を含めて主要な人物はわずか。

どれだけお金がなかったのだろう。

けど、結論から言うとつまらないわけではない。

なんだろう、「ダンケルク」や「ハクソー・リッジ」は戦地を多かれ少なかれ英雄的側面から描いていたのに対し、今作は舞台は違えど同じ戦争という場において、名も知られず散っていた兵士たちのまさしく極限の「地獄」を描いていると思う。

劇中、敵の姿は明確には描かれないことから誰と戦っているのかも定かではない中、帯重なる死体、そこかしこに横たわる死体、打ち捨てられる死体、死体死体死体…。

最も価値があるのは根っこと見間違えるほど貧弱な芋。

劇中、登場する誰しもがまるで亡霊のように落ち窪んだ目とガリガリにやせ細った身体を引きずって彷徨う。

まさに密林の中で展開される「無間地獄」。

わずかな登場人物もすごい。

徐々に追い込まれていく田村を演じた塚本晋也は言わずもがな、

爛々と輝く眼光が印象的な中村達也(「HIGH&LOW MOVIE2 END OF THE SKY」)、またしても「食えない役」のリリー・フランキー(「パーフェクト・レボリューション」)も真に迫った演技に引き込まれる。

でも、やっぱり印象的だったのは新人、森優作演じる永松。

鬼気迫るとはああいうことを言うんだろう。

まさに餓鬼、餓えた鬼だ。

最後の生き血を啜る音なのか、ペチャペチャ言う音、最後のシーンで田村を見つめるあのつぶらなのに凄みのある目、そして血で赤く染まった舌、全部すごかった。

狂気…と言ってしまえば簡単だが、そういうことでもない気もする。

知り合ったおっさんを助け、甲斐甲斐しく世話をする1人の青年が数々の悲惨な戦地の現状を目の当たりにして、自身も過酷な体験をすることで心身ともに追い込まれて、おまけに食べるものも尽きて…。

彼はなるべくしてなったのかもしれないと思うといたたまれない。

最後、田村は戦地から辛くも生還を果たすが、あのラストを見る限りずっと戦場の幻影に悩まされるんじゃないだろうか。

今年は「ハクソー・リッジ」や「ダンケルク」など彼の地の戦争映画を観ることで悦に入っていた自分にとって「戦争はお前が考えているほど生易しいものじゃない」と突きつけられたかのような作品だった。

やっぱり戦争は怖い、怖いんだ。
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