イカの丸焼き定食

野火のイカの丸焼き定食のレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
2.0
やたら平坦な画のせいで終始セットの中で役者が芝居してるような印象を拭えない。でかいスクリーンで観たら違ったのか。
考証面があまり描かれていないので主人公の行動の背景にある戦争の全体像が見えないせいで、感情移入するどころかこの男はなにを常にこんな弱々しく怯え恐々としているのかと腹立たしく思えてきてしまう。
そのくせ残酷描写だけはやけに直接的な映像が出てくるせいで、かえって現実味がなく、趣味の悪いアダルトビデオか安っぽいカルト映画のような露悪趣味的な印象しか残さない。

残念ながら反戦映画としては機能していない。この映画を見て、不快だから、自分の倫理に反するから戦争は嫌だと思うような人間は、きっと戦争を英雄的に描いて胸がすくような映画を観たら快哉を叫ぶのではないのか。これを観て衝撃を受けたなどという人間には、逆に戦争でどうやって人は死ぬと思ってたのかと聞きたい。

戦争に限らず、極限の状況で浮き彫りになる人間の性を問うてるのだとしても、登場するキャラクターがみんな極端すぎて、投げやりな印象ですらある。
こんな悲惨なことがありましたよ、という事実ではなく、自らの意思に反してその悲惨な状況に置かれることの理不尽さ、どちらの側に残ることになるのかその彼岸との紙一重さこそが戦争の暴力性の本質だと思うが、どうしてもこの映画からはあと一歩それを感じることができなかった。日本兵に殺される現地民が逆襲に転じる場面も、因果応報的なメッセージよりも、両論併記的な優等生めいた描写にしか感じられず、作品の軸足を分かりづらいものにしている。

いっそあのラストシーンをなくして、なにも救いも教訓もないまま投げといた方が少なくとも戦争の無情さという意味では良かったのではないか。あのオチだけで無理やり映画としてこぎれいにまとめた感じになってるのマジで小手先感。

ともあれ、ここで描かれている出来事がまごう事なき歴史的事実だというのを知識として確認するためには観てもいいのかもしれない。当然だが兵站がしっかりしていれば次は戦争しても失敗しないぞ!という話ではもちろんない。