うなぎネコ

野火のうなぎネコのレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
3.8
8月は戦争の事ばっかり考えている。
口の中で、食った事のない人肉の味がする。

毎度毎度言うけど超平和主義者(被ばく3世だし)です。
なのに、戦争映画が好き過ぎてヤバい。

たぶん、じいちゃんっ子だったから。
めちゃめちゃ無口な祖父が唐突に語る
戦地の記憶が、自分の記憶かと錯覚するくらい沁みついている。

祖父は、「華の海軍」だった。
(祖父の話しぶりだと、カシコーは空軍で
イケてる奴は海軍、といううニュアンスだった…)

どこか南方の島で、同僚はほぼ全滅だった。
いつも周りを見ると、隊の死体が転がっていた。
足や手がちぎれて、肉の焼ける匂いがした。
芋しか食うものがなかった。
南国のジャングルの非日常感
南の果物は甘くて本当に美味しい
(だから?バナナ好きだったな)
そして人は空腹を超えると、ヒトも食う話。
内臓は腐りやすい。どの部位から食うか。
自分以外の日本人の話は一切出てこなかった。
…今思えば、それが逆に怖い。

この映画を観て、コレはじいちゃんの観てきた世界ではないかと既視感があった。
蒸し蒸しする。濃い熱帯雨林の匂いがする。

他の戦争映画と違う点は
何か敵から大事なものを守ったり
戦う「大義名分」や「「言い訳」が一切ない事。
美しい南の島では、日本軍はただ鬼のような侵略者なのだ。
そして、兵士の戦う相手は主に飢餓。
建設的?な「戦闘」の様相を成していない。
たぶん、南方戦線は、それが現実だったはずだ。

鬼と化した兵士たちは、地獄の戦地から命がけで日本に帰還した港で
「負けておめおめ帰って来た」と石を投げられたそうだ。
虚しい。本当に虚しい。
彼ら(若者)は「お国のために」鬼になった。
死んだ人と生き残った人の「差」は何だったのか。

祖父の戦争は、地元に帰るために乗った汽車で、
子供を連れた女性が「ご苦労様でした」とくれたにぎり飯が、
死ぬほど美味しかった話で終わる。

かつて鬼になった元兵士たちは、どんな気持ちで「戦後」を生きていたのだろう。
もう、当事者から話を聞ける機会はほぼない。
「英霊」などと美化して閉じていいのだろうか?

毎年花火大会の時に
「爆撃を思い出すから好かん」と言っていた
祖父は、他の親戚には(子供でさえ)戦争の話はしなかったそうだ。
彼の見た地獄は、自分の中に遺されて消えない。
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