マーセルいいひと

オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分のマーセルいいひとのレビュー・感想・評価

3.9
86分の間、電話をしながらハイウェイをひた走るトム・ハーディだけを映し、電話口の相手との会話だけで映画が進行していくいわゆるワンシチュエーションもので、なおかつ映画内の時間の流れが実時間のリアルタイム進行もの。

部下や上司に信頼されながら10年近く勤める職や、築きあげてきた幸せな家庭を投げ出してまでも、愛しもしない一晩限りの関係であった女と生まれる子どもの元に向かうことの合理的でなさ、それを自覚しながらも、それが正しいことだと信じているからこそ向かわざるを得ないという男のキャラクターは魅力的。
それは、その信条を支えているのが男の強さではなく、男がその信条を強く持つことでしか自分を保てないからで、車を走らせるのは女のためでなく、生まれてくる子どものためでもなく、自分のためでしかないことがわかってくるからであろう。

ワンシチュエーションかつリアルタイムという手法による映像が、映画的な熱量に耐えうるものであったかというと微妙ではあったが、それは内容が全体として主人公のキャラクターを丁寧に彫りあげていくだけのものであったからかもしれない。空間的にも時間的にも限定されているだけに、人物においてはそのなかでの変化があればもう少し違ったものになっていたかもなあとか思ったりも。そうでないからこそ良いとも言えるのかもしれませんが。
なんにせよ面白い映画ではありました。