原始

人生は小説よりも奇なりの原始のネタバレレビュー・内容・結末

人生は小説よりも奇なり(2014年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

喪失は思いもよらぬタイミングでやってくる。
同性婚が可能となり長年連れ添ったカタチを確かなものにして、幸せ絶頂の二人に思いもよらぬ危機が訪れた。
例えば、これが少女漫画なら山場を乗り越えてハッピーエンド、そして二人はいつまでも幸せに過ごしましたで終となる。
けれどこの映画はその後、それからずっとずっと過ごした二人にとっても意地悪な試練を与えてくる。ジョージはキリスト教系の学校で音楽を教えていた…神の教えの元作られた契約書により彼はクビになる。家も売らなくてはならなくなり、ベンと離ればなれで暮らすはめになる。ジョージの夫のベンは彼をアンクルベンと慕うエリオットの家に身を寄せるが、一緒に住むことでそれまで踏み入ることのなかった顔が見えてきてしまう……家で過ごすと仕事で外に出ていくエリオットではなく、小説家のケイトと過ごす時間が多くなり、かれらの息子ジョーイの部屋の二段ベッドを使わせてもらっていることから、この二人と関わることが多く、またうまくかみ合うことができずにいる……食卓で食べおったエリオット家族が話している中、一人ゆっくりと食べているベンの姿が印象に残っている。きっとこれまではジョージと二人、話しながらゆっくりと食べていたのだろうなと今思い出して考える姿だ。
一番強く印象に残っているのは、ジョージが個人レッスンで少女のピアノ、ショパンの調べにのせてベンのことを思いそっと涙するシーンだ。それまでずっと39年近くにあった、当たり前だったことを突然失い、混乱し、そして、近くにいたときよりも強く彼のことを思う。ジョージはある夜耐え切れずにひどい雨の中ベンに会いにくる。その時のハグしあう二人の姿を、その夜ジョーイの二段ベッドと壊さないか心配しながらも一つの寝どこで眠りにつく姿が忘れられない。
ジョージもベンも、どんな目にあっても声をあらげることなく、穏やかだ。
ジョージは最後に残されたベンの絵を、屋上から見た街並みを、ベンが何を考えて見ていたのか、目にするたびに考えるのだろうか。そうして彼を思う。朝、目を覚まして一人きりのベッドで涙にくれる時、この喪失に耐えるために突然の試練はあったのだろうか。
喪失は思いもよらぬ瞬間にやってくる。けれど愛は確かにそこにあったと、この映画はそっと示してくれた。
原始

原始