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キャロルのishiwasaのレビュー・感想・評価

キャロル(2015年製作の映画)
4.0
まず始めに記しておくと本作はストレートなLGBT万歳映画ではない。僕は個人的に差別を描く映画に興味がある。同じ星に生まれ落ちた人間になぜ階級が生まれ人種によって分け隔てられ、性によって異なる人生を歩む。平等であるべき社会には必ず平等でなくマイノリティの環境の中で生きる人間たちが存在する。
近年市民権獲得の向上がめざましいLGBTの方々だが、そうでなくても本作は、市民権を獲得する前の時代を描き、そうでない人も分け隔てなく鑑賞すべき普遍性を持っている。
誰しもがこんな思いを抱いた事があるのではないだろうか。
「なりたい自分になれない」
「本当の自分はどこにいるのか」
「やりたい事が出来ない」
「若い頃の自分が今の自分を見たらどう思うだろう」
誰しもが一度は悩む自身のアイデンティティの存在、しかしその時が自らを受け入れてはいけない時代だとしたら、どうだろう。
本作は衝動的に自分がレズビアンだと気付かされた一人の若い女性と、本来あるべき自分を取り戻すことを選んだ一人の成熟した女性のラブストーリーです。
知性を感じさせるカメラワークとレトロスペクティヴに存分にこだわったファッションが最高に素敵で甘美。キャロル役のケイト・ブランシェットは夫の影に怯えながらもテレーズとの出会いを通し自らを立て直していく事を選ぶ力強さを熱演し、ルーニー・マーラは図らずも女性を愛してしまった自分に苦悩してしまう大学生を好演。
その二人のやりとりを、肩にそっと手を置く動作や、場面ごとの心情・心の距離感によって様々な切り返しアングルを変化させる
その手法は一流の芸術。
なりたい自分になるという要素は「アイアン・ジャイアント」でも重要なメッセージとされていました。LGBTを描きながらもそこに特別な事を敢えて盛り込まないこの映画の抑制された立ち位置にこそ、僕は心からの拍手を送りたいと感じました。
あと、とにかく伝えたいのはマーラが可愛すぎること。百貨店での一目惚れシーンのあの眼差しの可愛いこと!チェックの帽子が似合いすぎて可愛いこと!髪型が似合いすぎて可愛いことこの上なし!マーラファンはチェック必須ですぞ!!!
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