冰

キャロルの冰のネタバレレビュー・内容・結末

キャロル(2015年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

「自分を偽る生き方では私の存在意義がない」


キュートとエレガンスのふたり。好きな映画。俺も好きな人とお気に入りのトランクを持って旅をしたい……。


生前のパトリシアを知る人が、キャロルを演じたケイト・ブランシェットは絶対にパトリシアの好みだった、と話したエピソードは興味深い。


キャロルの感想を探すと、無意識に差別的な意見を放っている人の多さに辟易としてしまう。「あの映画では男は愚かに描かないとストーリー的に駄目」とか、「同性愛の映画なのに見られた」とか。ヘテロセクシャルって凄い……。

あの作中の男性陣は愚かに“描かれた”のではない。実際に愚か。キャロルやテレーズの意志を無視する、立派なミソジニストではないか。同性愛の映画がドロドロしているとか偏見に満ちた感想もいい加減にして欲しい……。

しかしキャロルはファッションセンスが抜群。ファッションを見れば分かるけれど、発言の端々(社交界デビューした話だとか)からも、キャロルという名前からも、彼女がアメリカ社会における上流階級の女性であることは一目瞭然。CarolってCarolineの略だろうし。

一方のテレーズは地味な学生のようなファッション。

原題The price of saltとは、きっとキャロルにとっての代償か、と思う。テレーズは、結果論としては、写真で食べていけそうな仕事が見つかり、気の合わないボーイフレンドとも別れることができたし、キャロルとの関わりでファッションも垢抜けて大人っぽくなりセンスが磨かれた。

それとは対照的に、キャロルの人生はあまりにも暗くて。テレーズ視点で物語は進むけれど、キャロルが刺激のために払った(しかしあの関係が単なる刺激とは思えないのだが)代償は大きすぎる。

キャロルはきっと、夫と離婚して経済的にも苦労することになる。記憶が正しければ家具店を経営するそうだが、マッドメンS1の前半を見ればわかるけれど1960年代のアメリカでさえ女性経営者は揶揄されている。娘と同居することもできなくなり、親権もない。テレーズとも暮らせない。

リッツで再会した後、ふたりがどうなったのかは分からないけれども、どちらにしても、当時は今以上に同性愛への差別はたくさんあったろうし、しかも女性なので、マイノリティ中のマイノリティとして生きていくことになる……。そういう過酷さを、きっとああいう感想書く人は何も分からないのだろうな。
冰