mOjako

キングスマンのmOjakoのネタバレレビュー・内容・結末

キングスマン(2015年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

とにかく個人的に好きな要素のみで作られた映画というか、もうね最高でしたよ。。

全然知らない人でも今作は明らかに007シリーズ、特に近作に対するカウンター的作品ということはセリフでも出てくるのでわかると思います。もちろん最近の007がシリアスに振り切ってるので単純に昔は良かったね的な作りとも言えるんですが、個人的にはもっと本質的な意味で007が象徴するものの批評になってると思いました。
007やジェームズボンドをイメージするとまぁ良い車乗って、女とイチャついて、世界の危機を救ってってゆう感じじゃないですか。これってつまり男の憧れだったり理想の姿だったりの象徴であり続けてきて、今でもそれは変わらないからここまで続いてるんだと思うんですけど。でもそれって同時にイギリス的な階級社会のあり方そのものでもあって、現実にジェームズボンドになるには金だったり地位だったりが必要な実はうっすら階級制度を背景にして存在してきたんですよね。
その構造を今回の「キングスマン」はメタ的に取り入れてて、例えばオープニング。取り調べに失敗した3人のキングスマンの名前がハリー、マーリン、そしてジェームズな訳ですよ。この後ランスロッドと呼ばれるこの3人目の男=ボンドなんじゃないかと。そしてこのランスロッドがその直後敵地に潜入し姿を見せるとただ住まいや振る舞い方が完全にボンド的で、こいつが活躍するのかと思いきややおら襲われて真っ二つ。つまり今作は007的な価値観を1度真っ二つに壊して新たなスパイヒーロー像を作り上げるという明らかな宣言になってます。
故に必然的に主人公は貧しく、紳士とは程遠いチンピラになってる訳ですが、このエグジーを演じるタロンエガートンが素晴らしいですよね。劇中言ってる通り「ニキータ」や「マイフェアレディ」ばりにチンピラから本物の紳士に生まれ変わったように見えなきゃいけない訳ですが、映画のラストにはちゃんとそう見える。ただそれにも増して素晴らしいのがまさかのアクション映画主演コリンファース。英国王ですよ。まったくアクションのイメージなくて驚きましたが、彼の持つイメージが確かにジェームズボンドとはまた違うイギリス紳士感、なんというかより律儀で穏やかで礼儀正しいけど強いってゆうフレッシュなスパイ像を打ち出せてます。その他キャストも全員完璧で、Bボーイ風ルックで人は殺せない平和主義者なのに極悪なサミュエルLジャクソンとか意外となかった冷酷なボス役マイケルケインとかおいしいとこ持ってくマークストロングとかキュートな同級生女子のソフィークックソンとかとにかく全員いいんです。ただそれで言えば今作最も素晴らしいのはガゼルですよね。歩くたびに金属音がしてカワイイとかちゃんと刃磨いてて偉いとか褒めるとこしかない訳です。ガゼルだけのスピンオフがあってもいい。

なんといっても白眉は中盤、教会での大立ち回り。この場面つまりは紳士だとかチンピラだとか、男とか女とか、あるいは神を信じようが信じまいがそんなこととは一切関係なく、生き物としての人間である限り全員等しくバカで、野蛮で、残酷だってことじゃないですか。ここで従来の007的価値観は破壊されたと思うんですが、このシーンのカタルシスは尋常じゃなくて。コマ落ちしたようなキレッキレアクション、スピードの速さ、アイデア豊富さ、どれを取ってもネクストレベルだと思います。
その後の展開も衝撃なんですが、ここからエグジーは真の意味でハリーからキングスマンを引き継ぐ存在へ変わっていく訳です。スーツであり傘であり象徴的な小道具もいっぱい出てきてまぁ隙がない。ここからのある種ゾンビ映画的な展開もいいし、もちろんガゼルとの一騎打ちも最高です。ただクライマックスで1番好きなのはやっぱり金持ちどもの頭大爆破ですかね。ビジュアルの面白さもあるんですけど、ここで流れる「威風堂々」。それまでは粋なポップソングが使われてて、満を持してクラシックがかかるのも要は貴族達の思い上がりや欺瞞に対する強烈な皮肉。そして幕切れのタイミングもお見事で。やってることはお姫様とのアバンチュールってゆうすごい007ぽい終わり方なんですけど、その意味合いの真逆さというか下劣さもまた良しですよ。

ゴア描写も全く逃げてないしスパイ道具のガジェットもカッコいいぞとか、何気に伏線としてマティーニの作り方覚えてたぞとか、最初にハリーが刑務所を訪れるシーンのワンカットの見せ方の上手さとか本当は細かい好きなとこもいちいち上げていきたいんですけど。
一応不満というか気になったとこがないでもない。クライマックスのアクションが教会のシーンに比べるとちょっと地味かなとか、今の007も全然好きだよとか。

一瞬これほど民主的な作品なのに悪役的に描かれる同級生たちがちょっと平坦に描かれすぎじゃないかと思ったりもしたんですが、違うんですよね。ハリーの言うセリフがこの映画のテーマです。"Manners makes man"=マナーが人間らしさをつくる。確かに人間はバカで野蛮な動物だけど、マナーを身につけること、秩序を守ること、真に利他的な行動が取れるということ、それがギリギリ我々の人間らしさの証明でありキングスマンの証でもあると。

大ヒットしてるし恐らく続編も作られるでしょう。楽しみだし、クローンとかむちゃくちゃな設定にしていいからガゼルを出して欲しい…。個人的にはキックアスより全然好きになっちゃいましたし、今年で言えば同じく人間に野蛮さと真に英雄的な行為を描いた大傑作マッドマックスもありましたが、キングスマンは荒廃した近未来でなく現代の紳士でありながらそのギャップで見せるところが新鮮だったと思います。何より本作が007のカウンター的作品なのは間違いないですが、同時に前作「xメン ファーストジェネレーション」同様007に対する圧倒的な愛情がなきゃこんな作品作れないと思うので、少なくともマシューボーンの個人的最高傑作は間違いないです。大好きでした。
mOjako

mOjako