No.2574
【ラブフル・リンカーン LOVEFUL LINCOLN】
ほぼワン・シチュエーションで、8人を中心とした人物たちだけで群像劇を作り上げることの、なんと難しいことか!
それを3時間近い尺でやり遂げるところに、タランティーノの執念を感じますね。
前々作「イングロリアス・バスターズ」で「ヘイトフル(憎しみに満ちた)」状態とはどういうことか、を見せておき、
前作「ジャンゴ」で、バウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)の生き様と、白人・黒人の根深い対立を見せておく。
この2本の壮大なお膳立てに触れた上で、ヘイトフル・エイトを見ると、まぁ、なんと本作は「タランティーノ・エキス」たっぷりの濃厚な映画だということがわかる。
大体が、3時間近い尺で、密室の群像劇なんか、企画段階で通るわけがないw タランティーノだから撮れたようなものである。
クオリティの高い密室劇は、私個人にとって、嬉しい副産物を2つももたらしてくれた。
1つは、モリコーネの作曲賞受賞。もちろん、遅きに失した、という感は当然ある。アメリカ人主体のアカデミー賞だから、「外国人」のモリコーネはなかなか受賞する機会がなかった。
だから、モリコーネは2006年に先に「名誉賞」を受賞している。名誉賞の意味合いは「もう今後、貴殿の年齢を考えても、実際の各賞受賞は難しいと思うので、これで勘弁してください」である。
だから、同じく外国人だが、ハリウッドに絶大な影響力のあった黒澤明も晩年もらっている。
よって原則、名誉賞を受賞した後には、実際の各賞受賞はほぼ可能性としてはないんだけど、モリコーネはそのジンクスを覆して実際に作曲賞を受賞した。
ハリウッドの雰囲気、世論がそうさせた、ともいえる。大体、オスカー像一個くらいで、モリコーネの絶大なる映画音楽への貢献度に報いられるかといったら、全然足りないけどねw
まぁ、そもそもタランティーノ映画にモリコーネが曲付けるって聞いたら、それだけで話題抜群ですものね。
そしてもう一つの副産物が、ジェニファー・ジェイソン・リーの助演女優賞ノミネート。意外にも、彼女は本作でのノミネートがアカデミー賞では初めてという。
肘打ちを食らい、シチューをぶっかけられ、血しぶきを浴びまくってもなお、凛とした強さ。私は感動した。
彼女が実際にどういう凶行を犯したのか、具体的に映画の中では語られないが、どんだけ男たちに酷い目にあってもくじけないあの強さを見せることで、逆に彼女がどれだけ酷いことをしてきたかを思わせるという、タランティーノ・マジック。
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2022年11月1日 2回目の鑑賞。
1回目より面白く感じた。
やっぱり撮り方うまいのよね。