滑頭

ババドック 暗闇の魔物の滑頭のネタバレレビュー・内容・結末

ババドック 暗闇の魔物(2014年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

とてもいいホラー映画だった。
ババドックという架空の怪物につけ狙われる母子の物語。
主人公は、事故で夫を亡くし、生活のため自分の夢を諦めて、老人ホームで働き、問題の多い息子を持つシングルマザー。シングルマザー歴7年。心身共に疲れ切っている。
女性監督の作品である。一見、そこらのB級ホラーのように見えるが、実は非常にメッセージ性の強い社会派な作品だ。
シングルマザーの抱える苦悩、そしてそこから最悪の事態が引き起こされるかもしれないという可能性まで、見事に描ききっていると思う。
この主人公は最後にはババドックに勝つことができたが、誰もがこの主人公のように強くはない。ババドックに負けてしまう人もいるだろう。
ババドックとは一体何者だったのか。
ババドックは、人間の心の闇を見つけてそこにつけこむ悪い妖怪みたいなものなのだと思う。心の闇は誰にでもある。誰でもババドックに狙われる可能性がある。シングルマザーに限った話ではない。ふと気づけば、本棚に見慣れない赤い絵本が立っているかもしれない。
最後の結末が面白かった。完全にやっつけるのではなく、同じ家の中で、共存することになるという結末。非常に考え抜かれていて大人な着地。確かにそうだ。簡単に心の闇を取り払うことなんてできない。むしろその方が危険なんだ。ババドックが絵本で言ってた通り、「否定すれば否定するほど強くなる」。そんなものはないと否定するのではなくて、そういうものもあるのだと理解して、認めて、いさめながら、共存していく。そうあるべきなのだ。
細かいディテールについて。
「三匹の子豚」の引用。最初に読み聞かせている本が「三匹の子豚」だったけど、あれはきっと『シャイニング』を意識してのことじゃないか。ジャック・トランスが斧で白いドアをぶち破るあの有名なシーン。あそこでジャック・ニコルソンのアドリブで「三匹の子豚」のオオカミのセリフを言うが、それへのオマージュかと。映画のテーマも被るし。
テレビでやたら古い映画やなんかを観ている。映画の時代がいつなのかよく分からないのは『イット・フォローズ』にも通ずる。母親がウトウトしながら観ているテレビにジョルジュ・メリエスの映画のようなものが映って、その中にババドックが登場するというのが面白かった。メリエスは奇術師だったけど、息子もマジック(手品)にハマっていて、それにはどんな意味があるんだろうか。

2016/02/26 @WOWOW
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