花波

名もなき塀の中の王の花波のレビュー・感想・評価

名もなき塀の中の王(2013年製作の映画)
3.5

いやあもう、不器用すぎるでしょ。本当に不器用すぎる。再会したときすぐ抱きしめて、会えて嬉しいって、そう言うだけで良かったのに、二人にはそれがどうしても出来なくて、そんな二人の関係がもどかしいのにでもなんでかすごく人間らしく見えて、愛おしかった。


ジャックオコンネル演じるエリックは、とにかくすぐキレる。落ち着いたかと思ったら次の瞬間にはキレてる。そうすることでしか自己を確立できないし、過去の傷が原因で人を信用できない。そんな彼が移送された刑務所で出会うセラピスト、収容者の仲間たち、そして父親。暴力でしか自分を表現出来なかった彼は少しずつ変わっていく。


父親から息子への愛は最初から傍目に分かりすぎるほど注がれているんだけど、なにぶん不器用すぎて遠まわしで、息子本人にだけはどうしても伝わってくれないのがじれったいんだよなあ……そこで背中を向けちゃだめ!って何回も思った。でも親っていつもそうで、遠まわしな愛を注いでくるものなのかもしれないな。

エリックは図体だけがおっきな子ども。行動も言葉もちぐはぐであやふや。紅茶はあまったるい方がすき。そしてとてつもなく、愛に飢えてる。彼の凶暴性の合間に垣間見える寂しさとか優しさとか愛らしい笑顔。ときどきそれは、わたしが大好きな少年たちの演技を観ているような感覚にさえ陥るほど。それもオコンネルの演技力の高さが魅せているんだろうと思う。『アンブロークン』でもそうだったけどこの人ものすごい身体張った演技してるから目が離せないし。


登場人物全員無論善人とは呼べない人たちなんだけど、でもそんな彼らも一人の人間で、当たり前に誰かの子どもなんだとひしひしと伝わってくる作品だった。家族との関係はどうあっても切れるものじゃないし、いつまで経っても、どう在っても心の拠り所なんだよね。痛々しくて、でもあったかい、良作でした。
花波

花波