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ストレイト・アウタ・コンプトンのpontaのレビュー・感想・評価

4.2
50年代、ロックが生まれ上層階級の愉しみだったレコードが一般にも普及した。

60年代、ビートルズやローリングストーンズ、スティービーワンダー、シュプリームスなどが登場し一つのジャンルの音楽の幅が拡がり、サマー・オブ・ラブも生まれ、ウッドストックが狂気の渦に飲み込まれた。

70年代、60年代に出来たと言われるパンクの雛形をセックス・ピストルズか一つのジャンルに昇華させた反面、R&Bがディスコの波に乗り大所帯のスーパーバンドが次々と登場。

80年代、ニューロマンティック、アダルトコンテンポラリーなどポップスの幅が拡がる中、ハードロック、ヘヴィメタルも誕生。アマデウスなどラップの雛形と呼ばれるものも出て来た。恐らく一番カオスだった時代。

90年代、メタルは死んだと言われ、テクノやブラックミュージックが本格的に台頭。このときR&Bが60〜70年代のそれとは別次元のものに。また、ミクスチャーやゴシックなどがコアなところで受け入れられるようになり、00年代に向けて着実に発展を遂げる。


僕はあまりブラックミュージックに詳しくありません。80〜90年代のラッパーに関してはビッグネームしか知らないし、この映画を観るまで彼らの音楽を聴いたことすらなかった。

正直イメージはそんな良くなかったです。ラップバトルは相手をディスってディスって且つリズムに乗って韻を踏んで、ぐらいのイメージ。罵詈雑言の歌詞なんてどんな時に聴くんだろう?と思ってたくらい。

でも違いました。
大きな誤りがありました。
それは音楽を聴くスタンス。
時代背景、曲やアーティストの成り立ちを知った上で聴く音楽は、ただリズムに乗った言葉の羅列を聴くのとは大きく訳が違う。
何度も音楽に救われて来た僕はそんなこと、十二分に分かっていたつもりでした。

アーティストが曲を発表する、それをファンが買う。もちろんこれだけでアーティストとファンの関係性は完成するだろう。しかし、アーティストかどんな意志でどんなコンセプトでどんな想いを込めた曲を発表したか。それを識って初めてファンはアーティストと向き合えるってことなんだろう。

この映画を観て分かるとおり、日本では考えられない人種差別が日常化し、マイノリティもそれを下唇噛み締めて堪えるのみ。日本人の僕が観てても憤りを感じるほど。

長年虐げられて来たこの行き場のない怒りと悲しみを音楽で表現したのがブラックミュージックの始まりだろう。

そしてギャングスタラップが誕生。
どうにも怒りの感情がピックアップされがちだが、観てて感じたのは悲しみのほう。哀しみでもあるかな、、

ストーリーは物の見事に「映画かよ!!」と叫ばずには入られない展開。生まれるべくして生まれて、集まるべくして集まったんだなと。

世間一般でいう音楽としては過激過ぎる。でもこれが彼らにとってのリアル。その目線に立って初めて彼らの真意に触れる事が出来た。ただ相手をディスってるだけじゃない。日本での生活からだと到底理解し難い、途方もない感情が渦巻いててそれを彼らは臆する事なく発信し、反響が生まれて世界を揺るがすことになった。

これほどのパワーとエネルギーを持ったアーティストが今いるだろうか?

改めて音楽の持つ力を魅せつけられた一作。ヒップホップやラップなどの暴力的な一面を嫌う人ほど観てほしい。
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