百合

追憶と、踊りながらの百合のレビュー・感想・評価

追憶と、踊りながら(2014年製作の映画)
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めずらしく成功した邦題

コンパクトにまとめられていてとてもいい作品でした。典型的なフラッシュバックものですが映像がおもしろくて変に気をもたせるようなこともせず潔い。これくらいさりげないのが良いと思います。
まさしく邦題と同じところにそれぞれが行きつくまでのちょっとした過程の話なのですが、比重は取り残された母親の方に偏っています。たしかにただゲイというだけのベン・ウィショーのキャラクターとは違い彼女は息子を喪っただけではなく言語的マイノリティであり老人で、息子との貴重な時間を奪われたという気持ちでいます。
結論は非常に内向的なもので(そういう感想も見かけましたが)、老人で中国人の母親が同性愛を「理解する」ということはなく、息子との幸福だった日々を思い出しながら過去が詰まった部屋で生きることを彼女は選びます。ベン・ウィショーは親切にも彼女をそこから出してやろうと画策するのですが、それを拒むのです。(対してベン・ウィショーは恋人の遺骨を母親に贈ってやり、遺品まで与えています。古くさい装飾品に囲まれた母親を映したラストシーンとは対照的で、ここでは彼の足が未来へも向きかけていることを感じさせます。)
ここで描かれているのは同じ愛するひとを喪った者どうしでも安易に連帯できるわけではないという現実です。そして通常われわれが連帯のために使う「言葉」というものの不自由さです。ベン・ウィショーは「言葉(通訳)」を贈ることでそれを乗り越えようとするのですがそうして企画された会話では互いのことを傷つけるばかり。心が少しだけ通い合ったと感じさせる最後の方のシーンには通訳の女性は出てきません。母親に訴えかけたのはあくまで音楽やベン・ウィショーの箸使いなど非言語的なものなのでした。
映画的にとてもふさわしいテーマで、見ていて舌を巻きました。本来向くべきはずの対話相手の顔よりも通訳者にピントが当たり、少しずつ話がこじれていく様子など、映像でしかできない表現でうまい。
やはりラストの静かなダンスシーンが好きでした。超然としたあきらめ。つらい…
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