青野姦太郎

オデッセイの青野姦太郎のレビュー・感想・評価

オデッセイ(2015年製作の映画)
4.5
火星に置き去りにされたマッド・デイモンを助け出すためにNASAと少数精鋭の宇宙船が壮大な救出劇を試みるというそれだけで『プライベート・ライアン』の記憶が否が応でも呼び起こされるが、それだけでなく、例えば彼の救出へ向かう宇宙船ヘルメスの船長は『インターステラー』で宇宙彼方の肉親への思いを強引に届かせるジェシカ・チャスティンであるし、重力圏に入らずに惑星の軌道を利用する方法論は『アポロ13』だし、NASAの秘密会議は『指輪物語』のエルロンドの会議に例えられるし、極めつけにクライマックスはなんと『アイアンマン』ですらある。
「リドリー、あんたの映画の趣味は最低だよ」とギュッと抱きしめたくなる映画趣味の育ちの悪さは、決して豊穣とは言えないが、船長の残したディスコ・ミュージックとともに本作をまるでごたまぜのおもちゃ箱のように彩り、愉快なものにしている。
しかし、なんといってもこの映画が素晴らしいのは、火星と同じ模型を地球で作成し、専門家が編み出した問題解決手段を言語として転送する極めてアナログ的な『アポロ13』メソッドを見事に踏襲している点だろう。それは、想像を絶するほど複雑な救出作戦を手近なステープラーとボールペンで説明する楽天的な大胆さ、あるいは、どうしても届かない距離を近づけるために宇宙船の扉を砂糖爆弾でブッ飛ばす豪快な痛快さにも通じるが、言うなれば、なんともアナログ的な泥臭い手段によってこそ、宇宙的困難は解決されるということなのだ。それは無謀とか、信念とか、希望とか、もはや20世紀に置き去りにされてしまったようなもの―一言で言うなら「ロマン」―に支えられているが、しかし、宇宙映画が「ロマン」でなくて何なのだ!!!デジタルCG技術の巧みさのみがただただ肥大化していく昨今の宇宙映画にあってもはや忘れられてしまった感のあるこのアナログ的ロマンを、ぜひとも肌で感じて頂きたい。

トニー、兄貴は元気でやってるぞ〜