享楽

世界から猫が消えたならの享楽のレビュー・感想・評価

世界から猫が消えたなら(2015年製作の映画)
4.8
30歳にして余命僅かな事実を自覚し自分が生きる為に消してしまった「かけがえないもの」の物語!人生愛を教訓的に魅せる話に感動。久々にというより恐らく今作の佐藤健の役にどっぷりと自己投影してしまい久々に目から涙+鼻水を垂れ流してしまった程。今年劇場で鑑賞した作品では「リリーのすべて」や「キャロル」「ホワイトゴッド」などで感涙したがそれ以上に主観的感動が大きい。
劇中実際看板にも宣伝として現れていたがフィンチャー監督の「ファイトクラブ」と類似した構造で驚いた。主人公のいわゆる”もう1人の自分”が自己の前に現前し対話するところで。前者では物質主義に固執する主人公が一方でそれを破棄したいところの理想的なる自分が、後者(今作)では死の宣告を受け容れた主人公を延命する代わりに世界から彼にとって愛するものを少しずつ失わせそれでも生が大切だよな?と語りかける悪魔(生物的な生に固執するところの悪魔)として。
時系列に若干の分かり難さがあるが最終的な印象はそうでもない。もしも世界から電話が消えたなら、彼女との大切な出会いもなかっただろうと。「人は些細なきっかけで出会い、そこから仲を深めてゆく。だがその仲の深さとは無関与に、もしその些細なきっかけがなければ2人は他人である。」というタイムスリップ物にありがちな題だが自分は相変わらずこの手の内容に弱い。「アバウトタイム」や「バタフライ・エフェクト」でもこの手のメッセージが垣間見られますね。
宮崎あおいとの旅行のシークエンスに移行するところが若干突発的。もう少し繋ぎの部分を緩やかに出来なかったのだろうか。
イグアスの滝で「生きてやる!」と叫び涙するシーンは人間の生への意志に関する普遍的な情熱が美しく見て取れた。絵画的にも。
基本的な舞台となる函館の街中は澄んだ感じで好き。映画マニアのタツヤの格言である「何かいい物語があって、それを語れる相手がいる限り、人生は捨てたもんじゃない」を聴いたときは思わず映画館内でガッツポーズを取ってしまった。そういう要素を微笑ましくてとても好き。
生とは何か、生の中で何を愛することが生への意志及び価値なのか。よく考えさせてくれる良作です。
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