イガコ

おみおくりの作法のイガコのレビュー・感想・評価

おみおくりの作法(2013年製作の映画)
4.2
じんわりじんわり沁みる。

身元のわからない故人の遺品から関係者を探し、
葬儀を手配し、参列する公務員。
見ず知らずのひとりひとりを送り出すのに
その人に合いそうなBGMを用意し
故人の部屋の写真や小さな痕跡から
その人のためだけの見送りの文を書き
見送った人の写真をアルバムに貼っていく。
丁寧に時間を掛けた、心のこもった仕事。

生きているうちには知り合わなかった少なくない数の人々と
彼らが亡くなった後で知り合う(一方的に)。
プライベートで身寄りも友達もいない彼にとっては
そのひとりひとりがかけがえのない縁のある人たち、
だったのかもしれない。

20年越えの職場から急に告げられたリストラとともに
動き出す彼の人生。
初めて出掛けた土地、
初めて口にする食べ物、
親しくなれそうな女性、
誰かに会うためのお洒落、にじみ出る微笑み
楽しみの予感、ふだんはしない買い物…。
新鮮な風が、彼の人生に期待を運んできた後に待ち受けるもの。

静かなタッチの映像が、
彼の日々の坦々とした仕事ぶりと生活を映し出す。
いかにも盛り上げようという演出は皆無。
彼の行動をじっと見守っているような作り。

こんな風に知らない誰かを弔ってくれる人がいること
どれほど大掛かりで豪華な形式張った葬儀よりも
ささやかだけれど、ずっと幸せなことかもしれない。
そして、仕事の岐路で、
彼は確かに関わった人々の心を動かし、
彼の目的は最後に遂げられたはず。

ラストは観客からの彼への感謝の心も表したかのようで
そこに優しい救いを見た。
イガコ

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