Ninico

セッションのNinicoのレビュー・感想・評価

セッション(2014年製作の映画)
4.5
音楽学校在籍中のドラマーの主人公と、スパルタ鬼教師の話。
鬼教師がコンプラ的に完全アウトな罵詈雑言で生徒を指導するその師弟関係が興味深いのだが、この作品の特異性は主人公の感情にも師弟の関係から生まれる人間ドラマにもフォーカスせず、ドラマーとしての主人公の行為や反応に着目してそれをひたすら描写し続けたという点である。
例えば、教師が主人公をわざと大勢の前で失敗させ罵倒し恥をかかせた→奮起し血まみれになるまで練習し上達した。等の反応の描写が繰り返されていく。
まるでDV加害者とその被害者がするような、サディストとマゾヒストがするような、教科書通りの共依存の支配関係下で一定の反応をしながらもそれを越えていく人間の姿を偏執的に描写することで物語を紡いでいくという点がこの「セッション」の物凄く斬新だった点である。
攻撃と反応の反復の中で、確実に主人公も教師も自分が欲していたものに近づいていく。
劇中で言語化されていなかったもっと深い感情やその背景、音楽に対する滾る何かが怒号とそれに呼応する爆音のドラムで力強く語られる。

そして、この映画が凄いのは、それ以上でもそれ以下でもないということだ。
『そのこと』だけを切り取ってそこで見える景色を映画にしている極めて個人的な物語であるという点だ。
ジャズや音楽や教育といった大きなテーマに主軸が置かれる映画ではない。
シンプルに、『ドラマーの俺とスパルタ鬼コーチとの闘い』『自分自身との闘い』を描いている映画なのである。
だからこそ、鬼コーチと対峙する最後の演奏の場面ではバンドの演奏もフェスの空気も全て無視した2人の対話を見せ壮大なカタルシスを体験させられる。

こんなにも『それだけ』を『そんなにも』描くことで観客を惹きつけた作品であるからこそ、この「セッション」は凄いのだ。

2016年配信で鑑賞
2023年立川シネマ・ツーで再上映
座席 I-9
思ったより少しスクリーンが遠い気もしたが良好な席。
Ninico

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