第87回アカデミー賞にて助演男優賞・編集賞・録音賞の三部門を制した本作。これは正直ジャズ映画なんかじゃない。熱い師弟関係を描いた良作なんかでもない。邦題につけられたセッションなんか甘っちょろい。これは音楽を、ジャズを利用した2人の男の殴り合い映画だ。
音楽の名門シェリファー音楽大学に入学したアンドリュー。大きな夢を持って入ったであろう大学生活も冒頭に父と2人で映画館に行くシーンや講義中の誰からも相手にされないシーンで決して薔薇色ではないことが分かる。そんな燻っていたアンドリューを見出したのがJKシモンズ演じるフレッチャー教授。スキンヘッドにギョロっとした眼、こいつ只者ではない…感をビンビンに感じさせる。
予告や目に入ってきた批評などでこの人がとにかく鬼畜講師であることは前もって知っていた。その前知識とは裏腹に意外とアンドリューとの始まりは社交的で厳しさを持ちながらも温和な雰囲気を感じさせる。だがこんなの仮の姿とは重々承知。いつ来るかいつ来るか…と待ちわびる。まるでホラー映画を観てるようだ。
そして来ました『Tempoooo!!!!!!!!!』Fワード連発。生徒のことだけでなくその親までもろ糞に言う。まさに鬼畜だ。鬼軍曹。その圧倒的存在感、恐怖でしかない。
正直な所、映画としては粗が目立つのかもしれない。アンドリューもフレッチャーもとにかく糞だし(ニコルをふったアンドリューを許さない)何度も「ううっ…」とモヤモヤが溜まっていく。しかし、そんな展開も最後の9分間のためのものだったのかもしれない。ラストの演奏は男と男の殴り合いだった。鳥肌が立ちまくった。全てのモヤモヤがラストに昇華された。ジャズとして音楽として素晴らしいと思ったと言うよりも、血と汗と涙の意地と意地の張り合いに痺れた。もうラストはどっと疲れた。
アンドリューもフレッチャー教授もお互い結局のところ、ジャズ、音楽に救われなかった。監督のデイミアン・チャゼルのかつての経験を基に描かれた本作。監督の経歴を見ると納得。以前脚本を務めたピアノ演奏家がミスをすると撃たれるシチュエーションスリラーの『グランドピアノ 狙われた黒鍵』に本作の『セッション』。よっぽどトラウマとして刻まれているのか、音楽に対する監督の思いを想像すると本作も受け入れやすくなるかもしれない。
何はともあれ上半期の傑作。これは観るべし!!観るべし!!観るべし!!