カイル

セッションのカイルのレビュー・感想・評価

セッション(2014年製作の映画)
3.8
観たのは去年だけど、最近この映画について考えることがあったので。

この映画において、とても重要だと思っていることが一つある。それは、映画の中で描かれる「音楽」というのは、あくまで「フレッチャーにとっての音楽」だということ。音楽に対しては人それぞれの解釈があるが、映画の中ではフレッチャーの解釈が指針として示されている。本作ではあまりにも世間の音楽とフレッチャーの音楽がズレているため、賛否を呼んでいるのだろう。ただ、そのズレこそがこの映画の面白さを生んでいるわけであり、この映画の醍醐味だと思う。ラストシーンでは、それまで狂気的な「フレッチャーの音楽」にただ応えようとしていたアンドリューが、初めて「自分の音楽」を確立してフレッチャーにぶつける。フレッチャーの音楽があまりに他人が適応し難いものであったからこそ、このシーンの興奮は増すのだと感じる。

とはいえ、音楽関係者、とりわけジャズプレイヤーたちにとっては、自分たちの音楽を歪んだ形で描写されてしまったわけなので、必然的に不満も出るだろう。アントニオ・サンチェス(チック・コリアやパット・メセニーと共演した現代最高峰のジャズドラマーで、映画「バードマン」にドラマーとして出演している)は、この作品を"ホラー映画であり音楽映画ではない"として痛烈に批判している。サンチェスは映画の音楽性に留まらず、音楽映画そのものとして本作の価値を批評したが、本作を巡る論争は音楽そのものの解釈だけではなく、音楽映画をどう捉えるかという立場に依るものもあると感じた。

この映画を観ることで、自分の音楽観や音楽映画観が浮き彫りになってくる。みんなの音楽観や音楽映画観を聞いてみたい。
カイル

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