たくたろう

セッションのたくたろうのレビュー・感想・評価

セッション(2014年製作の映画)
5.0


「FUCK YOU」


こんな映画見たことない。この映画をなぜ劇場で観たなかったのだろう。劇場で再上映しているなら是非見てほしい。家で見るなら期待値をマックスにして(それを必ず超えてくれる)映画だけに集中するためまず部屋を暗くし身体の内から熱くなるので部屋の温度を下げ闘う姿勢に入るため前傾姿勢で座り、音量はいつものテレビの1.5倍。そしてポップコーンにはレーズンを入れて片時も目を離さず、呼吸をすることを忘れず見てください。

⚠︎戦争やバトルものと思っても良いです。


これ程身を乗り出して見た映画はない。
これ程余韻が抜けず思い出すだけで鳥肌が立った映画は見たことない。なんの予備知識なく見て正解だった。全く先の読めない展開でなんとも唖然。「ラスト9分が圧巻」?あれって9分だったの?1分や1時間は大袈裟かもしれないが、9分には感じなかった。もっと長くそれでいて短く感じ、この感覚にずっと浸りたい、でも早く先を知りたいという矛盾の狭間にいた感覚。(言葉にできない)
しかしながら物語は時系列に一本道で音楽の経験のない自分でも純粋に作品を楽しむことができた。この106分という短い時間の間は映画を観るという行為のためだけにに必要な目や耳をフル稼働し五臓六腑のあらゆる器官を停止させるくらいの勢いでいてほしい。


この映画の何が凄いって俳優の演技。主役のアンドリュー・ニーマンの傲慢で野心剥き出しの狂気的でパッション溢れる役を演じるマイルズ・テラー。次のチャーリーパーカーを発掘することを目的としスパルタ教育の鬼教官テレンス・フレッチャー。これまた狂気的で脅威的で見ているこっちが身震いするくらいの鬼気迫る役を演じるJ・K・シモンズ。アカデミー賞助演男優賞を受賞するのは当然と言わんばかりの圧巻の演技だった。そして驚きなのが弱冠28歳であるデイミアン・チャゼル監督・脚本を手掛けたこと。実際に自分がジャズ経験しているということが撮影やストーリーをより良くしてくれたのでは。



さて、この映画で間違いなく最も出てきたフレーズ「FUCK YOU」。まさに「FUCK」の罵り合い。尊敬から恐怖、狂気、妬み、復讐へと変化したFUCK。指導から復讐へと変化したFUCK。しかしそれらは復讐の形では収まりきらず繊細で力強い覇気として音となり、そのパワーに促され洗練された空気を切る音のない音の指揮となり互助し合って響き合う。その世界は酸素も目に見えない微粒子ですらも入り込めない、パッションだけで溢れかえっている。

その瞬間は息をすることも忘れてしまう。そしてニーマンがチャーリーパーカーの境地へ辿り着いたことを認めるが如く倒れかけるシンバルを立て直すプレッシャーの姿!!
このシーンの涙は止まらない。

師弟の枠を超え2人は2人だけの囲で音を純粋に楽しんでいるのだ。。

そのときのJ・K・シモンズの微力な表情、コマ撮り、一つ一つのその繊細な演技は圧巻。文句のつけようがない。


溜めて溜めて溜めてようやく始まる'その瞬間'にセッションは終わる…。完璧すぎる終わり方。このラストシーンがあるからこそ傑作。

いつまでも余韻から抜けさせてくれない。こんな映画に出会えたことが純粋に嬉しい。
たくたろう

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