スピルバーグ監督の作品特有のノーブルさ。派手な所はないものの、「ストイッキームジーク(Standing man-不屈の人-)」という作中のアベルの言葉のように、静かな立派さがあった。
「不安を感じないのか?」と聞かれた時のアベルの返しが、聞きなじみがなさ過ぎてクセになった。「役に立つか?」
疑問に疑問で返す。最後までアベルは、のらりくらりとしていて掴めない、スパイらしくないプロだった。
韓国映画の『捏造者』でも『権力に告ぐ』でも思ったが、こういう作品を観るとじんわりくるものがある。
アメリカの監視システムを告発した『スノーデン』もそう、こういう実話を元にした映画は、映画の存在をとても価値あるものにしている。
ただの文字記録ではなく、そしてただの映像記録ではなく、当時の人たちの状況や気持ちを掘り起こして再現して残す。
人間が築いた文化の中で、とても尊いジャンルだと思った。
ストーリーは違うが、韓国映画『工作』が、この作品にテイストが似ている。
「敵国」同士の人が相手を尊重しながら、お互いの危機を乗り越える。どちらの国にいても一触即発、命の保証がない時代に、お互いが生き延びる方法を「不屈」に模索する姿は、「平和」を望む人々の貴重さを痛感させられる。
心温まる作品だ。
『ブリッジ・オブ・スパイ』というタイトルも、いい。引き渡しが橋の上という件で、なるほど、ともなり、国家間に於けるスパイとスパイの橋渡し役、にも掛かっていてキャッチイだ。