Jeffrey

救いの接吻のJeffreyのレビュー・感想・評価

救いの接吻(1989年製作の映画)
4.5
「救いの接吻」

冒頭、モノクロームの映像の中に1人の女性と1人
の男性。芝居の話、女優との決着、息子ルイの存在、列車旅、不意の接吻、不満、駅構内のベンチ、相談。今、実際の監督の家族で贈るホームドラマが始まる…本作は1989年にフィリップ・ガレルが監督したモノクロ映画で、日本ではようやく去年劇場公開された。この度、紀伊国屋書店から発売されたDVDを購入して「もうギターは聞こえない」と同時に鑑賞したが素晴らしかった。本作は監督の実際の家族たちを起用した家族ドラマで、息子のルイ・ガレルが可愛らしい。後に彼は監督の作品やフランス映画に引っ張りだこになる。個人的にはエロいドラマに多く出演している気がしていて、よく全裸になるのを好む俳優だなぁと思っていた。彼が出演している作品ではベルトルッチ監督の「ドリーマーズ」がやはり面白いだろう。

さて、本作は監督と数々の名作を作り出すことになった詩人で小説家のマルク・ショロデンコによるダイアローグである。その中には愛の可能性やストーリーの誕生の瞬間を我々に映す。主人公はとある家族である。もちろん出演はこの作品の監督のフィリップ本人と当初の奥さんであったブリジット・シィや息子ルイ、父モーリスとガチ家族で作られたホームムービーだ。


本作は、冒頭にジャズサックスのバルネ・ウィランのバラッドが奏でられ、そこから映画全体を包み込むような優しいメロディーがこの映画のモノクロームの美しさと合い、この愛の荒野を映し出す。ジャズが流れる中、私の名前はと聞きながら部屋に入ってくる1人の女性。そこにいる男性は夫のマチューであり、監督だ。彼は違う人に決めたと言う。女は思いを語り、男の横に寝そべり私を使ってと3回言葉で繰り返す。男は無言のまま彼女の腕を擦る。

続いて野外のカットに変わる。
そこでもジャズは流れ、女が道を走りながら渡る。女はマチューの妻ですと言い、役柄が決まった女性の家に入る。そこで女のクローズアップ、そして女は彼女にその役を降りてくれと頼む。女性は拒む。長々と話をする。続いて、カットは変わり女(妻)がマチューに女性(女優)と話してきたと伝える。そしてその女性から早速電話がかかる。その電話に出たマチューは今、子供を寝かしつけるところだからまた改めて連絡すると言う。


続いて演劇の場面へと変わる。そして旦那のマチューと役を与えられた女優の人が路上で話し合う。そこでマチューが彼女に接吻をしようとした瞬間に画面はフェイドアウトする。そこからベッドに座る後姿の妻(ジャンヌ)のショットに変わる。そこで息子のルイと男3人で未だにこの役柄についての話をする。妻は不満のようだ。夫は優柔不断な趣…

続いてベッドの上に置いてあった手紙を妻は読み切り捨てる。そして部屋を出る。だが、もう一度部屋に戻りちぎった手紙をゴミ箱から拾いつなぎ合わせる。続いて夫が息子のルイに食事を与えるシーンに変わる。ここでもジャズサックスの音色が奏でられる。ベッドには違う男性と一緒に妻の姿を見かけた夫はレストランで友人に相談する。続いて、雨の中びしょびしょになりながら息子が自転車をこぐシーンに変わる。そして部屋に入りベッドに寝かしタオルで体を拭く妻。そして妻と夫は半ば別居状態になり、息子を行き来させたりし始める。それで学校の迎えなどを担当し始めたり、様々な知識を夫マチューは友人からアドバイスされる。だが、弁護士だけはやめとけよと助言。

そして妻が夫の家に行き、そこで初めて2人は接吻する。これが本作のタイトルの「救いの接吻」なのだろうか…。どんな困難な時も接吻さえすれば救われると言う意味合いなのだろうか。実際に接吻してから夫婦がこんな事は大した事じゃないと言い話す。続いて、ジャズサックスが流れる中、息子のクローズアップ、そこからブレッソンを彷仏とさせる妻の手の描写、そこからカメラはゆったりと妻の顔、胸元、子供の顔へと移る。


続いて、ベッドで愛し合う(裸で)2人の描写、そこに息子が現れ3人でベッドの上で戯れる。そして画面は切り替わり、夜の列車の中で息子と父親のクローズアップに始まり、席をはずしていた妻がサンドイッチを片手に息子を抱きかかえ食べさせる。そこから息子の寝顔が画面に映り、ひたすら親子を映し出す。そして3人は風光明媚な原風景が望める美しい大自然へと到着する。その道を歩く家族、それを少し引き気味に撮るカメラ。四方八方山に囲まれたここでは音楽が使われず、もの静かに展開される…そして物語は加速して帰結へと向かう…



さて、物語は女優のジャンヌを妻に持つ映画監督マチューは、妻との関係を題材にした新たな主役に妻以外の女優を起用する事にした。それを裏切りと感じた妻から激しく抗議される。軈て、2人の関係は崩れ、愛の終わりとその持続について苦悩する…と簡単に説明するとこんな感じで、語り合う2人の描写を長く捉え、映画監督と女優であり、夫と妻であり、また息子の父と母でもある2人の対話が只管映される。


妻が女性に役を降りてもらえないかと懇願する場面での風の音や自然音、特に車が走る音などの雰囲気(クラクションだったり)が最高である。そして自然光を取り入れた窓際での対話劇は素晴らしい映像になっている。そして役に選ばれた女性が再度、窓際に行き窓を開けるこの運動の繰り返しがたまらない。

それと息子が洗面台で水をいっぱいにして、折り紙で作った船を浮かばせて遊ぶ姿も印象的だ。釘を拾って父親に釘で遊んだら危ないからと怒られる時にニコニコ笑う息子の可愛らしい姿も魅力的だ。狭い車内で足に怪我を負った妻を看病する夫のワンシーンも素敵。駅の構内でベンチに1人座るジャンヌを捉えるカメラが虚無すぎて素晴らしい。そこにジャズの音色を奏でて固定ショットを映して帰結するあのラストの印象深さと言ったら凄い。余韻が残る素敵な作品を決定づけた場面である。

それにしてもフィリップ・ガレルの息子のルイはお父さんに似てるなぁ。当時の奥さんめちゃくちゃ美人だし、すごい遺伝子で生まれてきてるな。それにしてもフィリップ・ガレルの83年作品「自由、夜」に出演していたと言う本作の妻ジャンヌ役のブリジット(監督の奥さん)を見てみたい…。

残念ながらこの作品は国内では円盤化されておらず、確かVHSも見当たらずレーザーディスクがあるとの事だが、こんなんじゃ見る術がない…輸入版を買ってみるしかないのか…残念だ。

この作品の脚本を担当したのがドワイヨンの映画でしばしば活躍していたJ.F.ゴイエなのだが、基本的に苦手な脚本家だが、この作品の脚本はずば抜けて好みである。それに撮影のJ.ロワズルーの撮影はピアラ監督のもとで、磨き上げた素晴らしいものをこの作品にも残してくれた。

今思えばガレル監督の作品を初めて見たのが確か2001年公開の「白と黒の恋人たち」と言う作品でモノクロ映画だった。確か若いカップルを描いた作品なのだが、それ以前の作品は若者を中心とした作品ではなかったのに何故だかこの作品以降は結構若者を主人公にしているなと改めて思った。この監督ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を2度も受賞している。

この作品は非常にオススメである。
Jeffrey

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