りょう

影の車のりょうのレビュー・感想・評価

影の車(1970年製作の映画)
3.8
 最近になって松本清張原作+野村芳太郎監督の作品を観ています。1970年のこの作品は、東京の風景がリアルにレトロなところが新鮮でした。
 全編にわたって、浜島幸雄と小磯泰子の不倫を描いていますが、2人を演じた加藤剛さんと岩下志麻さんは、当時の独特の雰囲気がメロドラマっぽいシーンに効果的です。冒頭の再会の場面に唐突感がありますが、当時の2人はとにかく美男・美女なので、自然と惹かれあう描写にまったく違和感がありません。
 その一方で、いろいろと不可解な健一の言動は、意図的な演出なのか、子役さんの技量の問題なのか、ずっと疑問を感じながら観ていましたが、終盤の展開でなんとなく理解しました。かなりブレているかのような健一の言動は、一部が浜島の主観や妄想で表現された場面だったのかもしれません。それが終盤の衝撃の展開につながり、浜島や泰子の供述と刑事たちの尋問がかみ合わない理由になっていたはずです。そこに浜島の幼少期の経験が語られるので、強烈なインパクトと納得感につながる脚色と演出が秀逸です。
 オープニングの夏からエンディングの冬まで、季節の移りかわりが丁寧に表現され、そこに浜島と泰子の幼少期の独特の色彩が挿入されているので、映像表現としても印象的な作品です。1982年の「疑惑」のついでに観ただけでしたが、意外な佳作でした。
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