小石川

ナイトクローラーの小石川のレビュー・感想・評価

ナイトクローラー(2014年製作の映画)
3.8
主人公の少なくない発言に正しさが混じっているが、どこかがおかしい。狂気じみていて、「こんなことはダメだ」と言いたくなる。言ってることもわかるし、そうあればいいと思うこともたくさんあるが、一体それらすべてに従っていったらどうなる?という味わったことのない狂気を感じる映画だった。
最大のポイントは、主人公の素性が全くぼやけていること。
「彼は27歳で彼女と別れたばかりの少しメカ好きで酒も好きで羽目を外しやすいけど実は誠実で…そんなやつが世界を救う」みたいなところから物語は始まりやすい。キャラクターはわかりやすくされ、シーンやプロットを用いて説明される。それが上手くて説明されてる感じがしない面白い映画も沢山ある。しかし、この映画は違う。
いっさい主人公に関する詳しい説明がない。物語は、主人公が仕事を探しているところから急に始まって、知らぬ間に有能なパパラッチになってしまう。その間バックグラウンドの説明もなければ登場人物で彼の過去に関わりのある人物は一人もいない。それでも充分なストーリー展開だし、その不気味さが逆に映像の狂気に力を与えている。
また、主人公があまりにも純粋で、危うさに溢れている。彼は狂気を楽しみたいとか、悪事に興奮するとか、金のためになんでもやるとか、そういうことはない。自己の成長と成果の正当な評価、やりがいと楽しさを徹底的に追求しているだけなのだ。その結果として起きる問題は解決すべき課題であり、そこに社会的な問題意識は含まれていない。「自分はどう生きる?どう成長する?どうすれば人生を実感できる?」と問いながら、外道のような仕事にのめり込んでいるように思う。
「真剣」のなにが罪なのか、どこまで行けば「道徳的」なのか、必要な選択はどうするのか、教えてくれる。しかし、それが正解とも限らない。
新鮮な狂気を感じるうえに、何かこれから先に引くべき線を見据えさせてくれるようなところがある映画だった。
演技面は文句なしにジェイク・ギレンホールがすばらしい。彼の一人舞台と言っても過言ではない。
小石川

小石川