樹

エクス・マキナの樹のネタバレレビュー・内容・結末

エクス・マキナ(2015年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ゆったりしたテンポで進行する話なこともあり、僅かな表情の変化や仕草から、ケイレブの感情の変化、エヴァやネイサンの言動の真意を見極めようと必死になれます。
 ヒトと人工物、真と偽の繊細なあいまを読み取ろうと、目が釘付けになりました。そうした曖昧な情報の見え隠れが、一つの見どころでしょう。

  それから、顔と手だけに皮膚があり、腹などは透けているというエヴァのデザインが、カッコいいです。滑らかに動くけど、動いた後はスッと静止するし、機械の駆動音もあるから自然とアンドロイドとして観れて、とても新鮮な感じがします。細かく積極的に動く感じが、反って人間を真似ようとした結果に見えて、アンドロイドらしさになっていると感じます。視覚体験として面白いです。

  その他、インテリアのデザインといい、野外の風景といい。作品全体を通してシックなトーンの色彩が美しいです。とてもよい調和が取られています。
  ポロックの絵は、無意図、オートマティックそのものですが、描くという意思無くしては創られないものでした。つまり、ポロックの絵は純粋な創造の意思のみでできていると解釈できます。何かをしようという意思にこそ価値があるというネイサンの信念があり、意思をAIに与えたいという彼の望みが投影されている、のだと考えます。
  その他にも、ネイサンの部屋の外にある五つの顔の飾りや、テーブルの上の骸骨とか、小物のディテールで丁寧に意味を示してくれて、深みがありました。

  また、人間そっくりなアンドロイドの話であるだけに、肉体を意識させる絵は丁寧に意図して作られています。肌の露出が多く見かけられますが、生物的な肉体の生々しさはありません。キョウコが肌をめくるシーンでも、そんなに気持ち悪くは見えないようになっていました。柔らかなライティングのおかげか、全体に清潔感がある印象で、肉体というものの特別さや、神聖さが際立っています。キョウコがサーモンを切るシーンはエロティシズムの暗示かと思いましたが、さりげないレベルで生々しさは少ないです。ここは包丁を見せて最後にネイサンを刺すシーンとのつながりを持たせるためのカットでもあるのでしょうか。
 他にも筋トレとかリストカットとか、肉体を意識させる描写が注意深く描かれている印象でした。

AIって怖いと思いましたが、同時に美しく興味深いとも思いました。町に出たエヴァがその後どうするか考えるのが面白いです。人間観察や知的な成長を求め続けるのでしょうか。そうして、より人間そっくりになっていくのでしょうか。
 単純な良いか悪いかの判断では片付かない、AIに対する認識が一歩深まった気がします。
樹