かすがい

殺されたミンジュのかすがいのレビュー・感想・評価

殺されたミンジュ(2014年製作の映画)
3.5
監督曰く本作品は、国家が個人・国民に与える痛みを描いた権力の不正腐敗と戦う市民の物語だというが、ストーリーを軸にした映画というよりも、強きメッセージ性に基づいた、現代社会へのアイロニーを多分に含む監督自身の叫びのように感じられた。というのも、女子高生の殺害事件の真相を追うことが事の発端であるにも関わらず、最後までその内容が明らかにされないためだ。この点から、本作品の要が物語性に依存していないことがわかる。「生きていること自体が痛みである」と言い放つ監督の言葉通り、作品では食事と暴力(痛み)の結びつきが執拗に描かれた。どちらも生きていく上で避けられない「生」の象徴ともいえる行為であるからだ。
また、時計やバッグやライターなど、たびたび現れるブランド物とニセモノの対比も印象的だ。ライターを高級品であるとだまされて買った青年のエピソードは、政治家に容易にだまされてしまう見る目のない市民を象徴しているのだろうし、ニセモノと知りながらあえてそれを身につけている人物らは、本物のようなものを持って身を装いたい、安心できるのなら例えそれが嘘であっても構わないとする、「真実から目を背けたい」韓国政府(日本政府にも勿論適用できよう)を示しているように感じた。ブランド物とニセモノ・本当と嘘・真実と真実が隠蔽されたまやかしの世界、といった二項対立の構造を登場人物らに投影しながら透かし絵のように重ねあわせる巧みな方法は瞠目に値する。
 誰かを卑下することで、自分よりも下位の存在がいることを確認し、安心したい人間の弱さ。卑怯で臆病で、危機に直面すればすぐさま保身に走るわたしたち。この混沌とした時代に「生きている感覚」を捨てずにどうやって生きればよいのか、という疑問を投げかけながら、本作は自分自身の弱さと一対一(=one on one)で向き合うことを要求する。

@東京フィルメックス2014
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