Chico

ナショナル・ギャラリー 英国の至宝のChicoのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

昨年2020年、国立西洋美術館で開催された同名の展覧会が記憶に新しい、ロンドンナショナルギャラリーが舞台のドキュメンタリー。

上映時間3時間。長いようであっという間でした。至極の3時間(ワイズマン作品としては普通の尺)

客の入っていない薄暗い館内。クローズアップで次々と映される西洋絵画。静寂の中、幻想的で崇高な名画の数々に見入っていると、ガァァァという音とともに画面左側にフロア洗浄機が映りこんできて、現実に引き戻される。絵画に目もくれず黙々と作業する清掃員。そして画面が替わり、開館後の来場客の入った館内が映し出される。
オープニング完璧

ナショナルギャラリーの運営と絵画の修整(保存)の2点に焦点を当てて、開催された展覧会の様子を挟みつつ、美術館の全貌を語っていく。

ナレーション、音楽、インタビューなどはない観察するだけのドキュメンタリー。とはいえスタッフの会議、レクチャー、テレビ番組の収録などが映るため情報量はかなり多い。そして観客の会話やざわめきも聞こえる。(海外の美術館はにぎやか!)

先ず本作中に開催された展覧会は、レオナルドダヴィンチ、ターナー、ティツィアーノ。館内の会場づくりや搬入、セッティングなどの裏側が見えるのはレア。

予算や助成金等についての経営会議や、(TVとのコラボなど)美術館の広報会議、そしてレクチャーやデッサン教室、学芸員によるギャラリーツアーなどのインタラクティブな活動にもカメラを向ける。

修整についてのシーンが個人的に一番好き。本作では、レンブラントの「馬にのったフレデリック・リーヘル」をX線分析し得た結果を解説する様子が映る。ベラスケスの「台所の情景、マルタとマリアの家のキリスト」についての見解も。レクチャーを受けてるみたいでかなり勉強になった。

「修復とは新しくすることではない。」
「絵画の保存においての基本原則は元に戻せること。作業全てを次世代がやり直せることが大切」

何カ月、何年と時間をかけて修復したものが15分でするりと落とされる。らしい😮

ギャラリーツアーも印象的。学芸員の方々の言葉巧みな表現力(プレゼン力)👏

例えばこんなことについて説明している。
歴史画における光の描写について、絵の中の光は現実とリンクしている、と言う話がとりわけ興味深かった。
 ある宗教画(初期のキリスト教絵画)について教会に飾られたその絵画が当時の人達にとってどうゆう意味をもっていたのか。
 金色をふんだんに使って描かれたそれは薄暗い教会の中で、ゆらゆらゆれる蝋燭の光に照らされ、神々しく動いているように見えたはず、そしてそれを目前にして人々は信仰心を強めたのではないかと語る。
 また、ルーベンスの「サムソンとデリラ」を前に。絵画の中の「光」は自然光との相乗効果を計算して描かれる。自然光が最大の効果を発揮できる場所に飾られる。(例えば窓際など)
照明で均一に照らされた室内で絵画を鑑賞する現代人とは違う、光に対する価値観があった。

美術館や絵画についてのエピソードは山ほどあってどれも面白いが、この映画の意義は「観察している」ということ。空気のように存在を消しながらカメラに映る被写体をフラットに映す。脚色のないありのままの世界。
そして浮かび上がってくる様々な問い。社会と美術館の関係性についてもその一つ。   
 館長(定かではないがボス的な男性)が広報の会議で「低俗なものに合わせてこのナショナルギャラリーの格を下げたくない」と発言する。彼がカメラを意識して誇らしげに語る姿はどこか滑稽な印象だが、それはさておき、美術館は、芸術(西洋美術)は誰のためにあるのか。一部の層のものになっていくのか。絵画により救いが求められていた時代からはその存在意義も大きく変化している。そしてその変化はこれからも続く。

オープニングで画面に映った清掃スタッフの姿を思い出し、それが映し出された意味を考える。

※日本での展覧会は会期が短かく、コロナ禍で一時休館されたりと観る機会を逃してしまったため、本作で本家の雰囲気と所蔵作品を(チラ見だけど)幅広く観れたことはとても良い体験になった。
ふと頭をよぎったのがアムステルダム国立美術館で修復中の「夜警」。これもレンブラント。何か新しい発見あったんでしょうか。わくわくします。
Chico

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