ブタブタ

ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女のブタブタのレビュー・感想・評価

4.0
この余りにダサい邦題のせいで見なかった人も多数いると思う。
かくいう自分もその一人。
『ザ・ガール・ワークス・ホーム・アローン・アット・ナイト』か直訳の
『女の子は夜、ひとりで家に帰る』
じゃ何でダメなのか。
アナ・リリー・アミールポアー監督はイラン系アメリカ人女性でイギリス生まれのアメリカ育ちで中東文化には自分の出自以外何も関わりはないらしい。
イランの何処かの架空の街「バッド・シティ」はタランティーノの「昔のアメリカ映画に出てくる間違った日本を敢えてやる」みたいな外側からイメージした存在しない架空の中東の街みたいなものか。
アミールポアー監督は完全に映像とセンスの作家だと思う。
インタビューで影響を受けた映画作家としてデヴィッド・リンチ、ラース・フォン・トリアー、ロバート・ゼメキス、スティーヴン・ソダーバーグ、クェンティン・タランティーノの名前を挙げてるけど、それとジム・ジャームッシュとか子供の頃からこれらの映画を浴びる様に見てたんだろうなと思う。
石油採掘機が並ぶ風景や工業地帯はスチームパンク風近未来SF映画みたいだしモノクロの映像はやっぱり『イレイザーヘッド』を思わせる。

スケボーに乗ってやって来るヒジャブの美少女吸血鬼(ボーダー女子で好きな音楽はUK)でもう大勝利確定映画。
吸血鬼を演じるシェイラ・ヴァンドさんが美しくて、それも中性的な感じが人間以外の存在だって事を感じさせる。
湯船に浸かってるシーンで胸が見えてても色っぽさよりも美少年か美青年に見える。

ストーリーは殆どないに等しく孤独な青年と吸血鬼少女の出逢いと恋ってありがちな話し乍モノクロの硬質な映像と全編を彩る音楽。
電子ミュージックやロック(全然詳しくないのですが今のじゃなくて90~00年代のやや古いの?)やマカロニ・ウェスタンみたいな音楽が突然流れたり、セリフは極端に少なくMVみたいな作り。

闇の中に浮かぶ発電所の強烈な光のコントラストや、全てが人工的な物で埋め尽くされた世界の中で吸血鬼という超常的な存在の非現実感とモノクロで夜なのにまるで白昼夢を見てる様な美しくて幻想的な映画。

アミールポアー監督は多分日本のアニメは見てないだろうけど音楽の使い方とか、架空の近未来?都市が舞台で主人公が超常能力者の美少女とか、80~90年代の美少女が主人公のOVAの感じも何かする(押井守監督とかそのフォロアー)

架空の中東の近未来都市を舞台にしたサイバーパンクSF『重力が衰えるとき』に始まるエフィンジャーの電脳三部作や最近では『バグダードのフランケンシュタイン』等、(架空の)イスラム圏が舞台のSFやホラーをアミールポアー監督にはこれからも撮って欲しいです。
ブタブタ

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