享楽

アメリカン・ドリーマー 理想の代償の享楽のレビュー・感想・評価

3.3
1981年最も犯罪が多発したニューヨークを舞台にオイルカンパニーを築き上げた代表取締役のアベル(オスカー・アイザック)が事業拡大を目論む最中、数々のアクシデントに当面し乗り越えて理想を築き上げて行くサスペンス社会派劇。当時の社会的背景を忠実に描写しているように見て取れ卑怯な手段や犯罪が飛び交う中「正しい道を行くこと」を確固たる信念とし決して折れずに誠実に問題を解決して行く主人公アベルの様に感嘆。時代の背景もあってか各企業が執拗に検察官に検問 調査等されていたのでしょうか、アベルの社も例外にもれなくそれを受けいたがアベルは潔白を頑なに主張。冒頭寒日のニューヨークでコンクリートの落書きを背に直向きにランニングするアベルの様を始め終始彼の誠実さが見て取れました、描写としてこのように時代の空気感(コンクリート壁の落書き 異様なまでに電車内にもそれがある=若者達の荒れ具合)(劇中何度か繰り返されるラジオの報道から聞き取れる街の治安の悪さ)と対立するアベルの正義への忠誠的態度とのコントラストに美しさを感じた。
全体的にどこか燻んでいて明るいが無機質で退廃的な街並みの雰囲気が時代の空気感を分かりやすく反映していてその中で鮮やかなブルーの背広を着て懸命に仕事をこなすアベルのキャラクター性も美しい。社員であり妻でもあるアナとの相容れない性格対比から繰り広げられるドラマも魅力的。アベルは一貫して暴力に反対し絶対に自衛の為といえども運転手に銃を持たせず、特にその反暴力主義を顕著に現していたのがアベルとアナの乗る車がシカを轢いてしまって…のあのシークエンスでしょうか。そういった些細なプライベートでも銃の所持に反対し万が一の捕まるリスクは絶対に回避するべきだとの説得に心打たれました。

当時の時代の背景を考慮した上でのアベルの職人的鑑像や彼の人物の魅力的描写が素敵です。サスペンス的要素の凡庸さや伏線未回収、傍役達の立ち回りや配置に面白みが少々欠けていたりする点ありませんでしたかね。アベルとアナ以外の人物描写にもう一歩欲しかったところですが悪くない作品。
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