海老

しまじろうとおおきなきの海老のレビュー・感想・評価

しまじろうとおおきなき(2015年製作の映画)
3.8
とある事情で、今更ながら旧作を引っ張り出して見ます。…って総Mark数の何と少ないこと…。

子供向け映画や大人向け映画は数あれど、「親子向け映画」というジャンルは稀有に思います。作品の性質上、ターゲットは「1から5歳くらいの子供とその親」というサブカルも驚きのピンポイント射撃。同業他社のアンパンマンに踏まれようが、「食物連鎖仕事しろ」と野次を飛ばされようが、「とらじろう」と間違えられようが、雨にも負けずに劇場版を送り出し続けるのが、しまじろう。

繰り返しますが、作品の性質上、ここで勧めても上記の層から外れれば、まず決して食指が伸びることの無い映画。
故に、敢えてネタバレ全開で。

劇場版しまじろうには作法があります。
・泣いても騒いでもOKと「断り」がある
・途中で5分のトイレ休憩がある
・基本筋はアニメだが間に人形劇やクイズコーナーもある
早い話が教育テレビの尺を伸ばして劇場で公開しているようなもので、連れて来る親御さんも、Eテレを子供の隣で付き添う気構え。何なら昼寝タイムくらいの感覚でいるわけです。

そんな腑抜けた覚悟の親に爆弾を投じた本作、おおきな木。

導入は、第二子のいる家庭にありがちなすれ違い。
実は、しまじろうには妹がいる。「ハナちゃん」と呼ばれるその子はまだ小さく、母親はその子に付きっ切り。お母さんの似顔絵を褒めて貰いたいしまじろうの心に気付かず、割って入ろうとするしまじろうに「お兄ちゃんなんだから」と無神経な言葉を投げつけてしまう。
その夜にハナちゃんは不思議な夢を見る。マザーウッドと呼ばれる、雲より高い木が、助けを求めている。真相を確かめるため、しまじろうはいつもの仲間たちとマザーウッドを目指して冒険へ出発する。母親への不満、妹への嫉妬を抱えたままに…。
※この本筋アニメが始まるまで20分くらい

これは母親の愛情を自分に向かせたい長男の成長物語。そして二児の親に対しての警鐘。そこに一切の変化球は無く、全てが直進の速球。
妹のために小さいお兄ちゃんが奮闘する姿や、友達のために恐怖と闘う姿は、どれだけベタであろうとも目頭が熱くなるもの。

何より、危険な冒険から帰還したしまじろう・ハナちゃんと、母親との再会は、冷静で観られないほどに刺さる。

無事に帰った息子を抱きしめようとする母親を、彼は「聞いて欲しいことがある」と制す。
下の子ばかり可愛がらないで欲しいこと、お兄ちゃんだからと言わないで欲しいこと。隠していた本音を正直にぶつける子供を、真剣な目で母親は見つめる。
もういいだろう?お母さんは分かってくれるよ、と父親は諭す。それでも、「最後にどうしても一つ、伝えたい事があるんだ。」と、引き退らない。
息子の想いを最後まで聞かせて欲しいと、改めて向き合う母親に、彼は優しい顔で「最後の一つ」を告げる。


「僕は、お母さんが大好きだよ。」


驚き、戸惑いとともに、堪えきれずに大粒の涙を零す母親の姿に、全国の親御さんがどれだけ共鳴した事だろう。
二児の親への警告に思えた話が、最後に「貴方は頑張っているよ。子供は分かっているよ。」と、まるで背中をさするかのような。こんな変化球、涙を堪えられる訳がない。育児に悩みも疲れも感じない親など居ないのだから。しまじろうを通して我が子に抱きしめられたような感覚に、僕自身も嗚咽が止まらなかった。


今頃になって、この作品のレビューを書こうと思った理由は2つ。
一つは、あまり多くの人に観られない本作の感動の一幕を知って貰いたかった事。

もう一つは、僕自身が、本日、「二児の父親」になった事です。

この場をお借りして報告します。
本日、無事に二人目の子供が産まれました。とても元気な男の子です。
この小さい手を守っていかなければという想いと共に、長女への愛情を決して減らさない決意を心に刻みます。それを思い出す事と、悩む親を抱き止めてくれるかのような本作は、僕にとっては思い出深い作品です。
次男の成長と共に、長女の成長と共に、父親母親の成長と共に、しまじろうとはまだ長い付き合いになりそうです。

妻への感謝、両親への感謝、子供達への感謝、今の僕を構成する全ての事へ今は感謝の念が尽きませんが、これ以上は私情の乱筆になるので、締めといたしましょう。
映画好きはやめませんので、今後ともよろしくお願いいたします。
海老

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