近藤真弥

スター・トレック BEYONDの近藤真弥のレビュー・感想・評価

スター・トレック BEYOND(2016年製作の映画)
4.1
『ワイルド・スピード』シリーズのジャスティン・リンが監督だから大味になってないかなあ...と不安だったけど、杞憂でした。ビースティー・ボーイズ「Sabotage」を流して敵を殲滅するシーンに「マクロスかよ!」と爆笑しつつ、2009年から始まったリブート・シリーズにあるメッセージ性をより深めた描写にやられた。

公開前なので詳しくは言えないけど、黒人のイドリス・エルバがクラル(今作の悪役)を演じてるのと、劇中でパブリック・エネミー「Fight The Power」が流れるのはおそらく関連性があります。今回クラルが起こした行動の動機も、アメリカに対する批評的視座が込められたものでしょう。端的に言うと、利用できるときは利用して、必要なくなったら何かしらの理由をつけて収めるところに収めようとする身勝手さがもたらす問題。それが今作の色を決定づけている。

リブート・シリーズは、バルカン人と地球人のダブルであるという理由でスポックが差別される描写を入れるなど、もともと差別に対するメッセージ性は強いものだった。その部分を今作はより明確にしたということでしょう。終盤にカークとクラルが対峙したときのやり取りも、さまざまな困難はあるけど多様性あふれる平和な世界を目指す時代に生まれたカークと、抑圧を受けたから戦争という形で復讐しようとするクラルの違いがハッキリ表れている。このあたりは、アメリカの現況ともリンクすると思う。

さらにリブート・シリーズは、私怨が強い復讐鬼を悪役にする点がよく批判されていた。ところがクラルは、復讐鬼は復讐鬼でもそうなった理由はこれまでよりも複雑。ゆえに今作は、深いドラマ性と社会性を獲得できている。それを中盤以降で一気に浮かびあがらせるのではなく、もっと丁寧にやればより深くなったかも?とは思うけど、そうした欠点が些細なことに思えてしまう魅力を持つ作品であるのも確かなのです。
近藤真弥

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