おすず

あんのおすずのレビュー・感想・評価

あん(2015年製作の映画)
3.0
先日、香川県の小さな離島・大島に行った後、この映画をみた。大島はかつてはハンセン病患者を隔離するための療養所として、現在も島全体が回復者のための国立療養施設になっている。

映画で映し出される四季折々の美しい自然たち。(光がやわらかく降り注ぐ満開の桜や鳥の鳴き声、風で木々がさわさわと揺れる音、冬の朝のしんとした空気。)そんな景色と常に隣り合わせに、中心には「ハンセン病」というどっしりと重いテーマがある。その対比で一層自然は美しく、一方で移っていく季節がどこかもの悲しい。

大島でも同じことを感じていた。真っ青で静かで、どこまでも広い瀬戸内海や、島にのびのび育っている木や草、可愛らしく色をつけた花たち。島が纏う空気はとても穏やかだけれど、常にそこに寂寥感があった。

史実を物語として再構築するときに、事実との照合や表現の仕方が議論にあがることも多いけれど、どんな形であれ(それが自伝であれインタビューであれ)人を介して史実を伝えるということは、創造と同義だと思う。

この映画を一つの作品としてみたときに、全体を通しての平凡な日常の描き方(徳江と千太郎のなにげない日々の会話や映し出される景色)や、説明的でない映像のつくり方(どら焼き屋の客足が途絶える過程や、徳江が辞める際にどちらからも決定的なことを伝える場面がなかったり)に対して、後半のドラマティックな展開がちぐはぐしてみえてしまった。千太郎の過去からのやさぐれ然り、ワカナの家庭環境然り、オーナーの甥の登場然り。。さらにそれらへの突っ込み方が中途半端で、いまいち彼らの行動を納得させるのが難しかった。

徳江の最後の描き方は、賛否両論あると思うが、あれが現実だったのだと思う。でももうあそこまでドラマティックにいくなら、徳江が戻ってきて塩どらやき爆売れみたいな展開になってほしかった。。

ただ、どういう表現方法であれ、この映画をきっかけにハンセン病とその歴史に興味をもつ人がいる限り、作品としての価値は十分あると思う。あとは、映像の美しさは映画のテーマをよく引き立たせてた。なによりも、樹木希林はこういった役において天下一品なのは言わずもがなでした。
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