えいこ

あんのえいこのレビュー・感想・評価

あん(2015年製作の映画)
4.8
河瀬直美監督作品初鑑賞。
どら焼きを焼く手元や鍋の中のクローズアップが効果的。皮が膨らんでいくところ、小豆の炊けていくところはことさら美味しそうに見える。

桜のぼんやりした空や葉桜のそよぎ、紅葉した園の景色も美しい。自然はありのまま美しく、図書館の柔らかな光、千太郎の部屋の殺伐とした様子はありのままを映す。
木から立ち上る靄や地面に揺れる木漏れ日、一瞬を切り取る場面も多い。

台詞は少ないが、徳江さんの言葉は心に響く。樹木希林、永瀬正敏の演技はやはり素晴らしく、市原悦子の絡みも印象的。
病気による謂れなき隔離だけでなく、人にはさまざまな枷がある。ワカナのカナリアが象徴的に使われ、終盤にかけて千太郎が外に踏み出していく。

苦しいこと、どうにもならないことはあるけど、自分にはできることもある。手を差し伸べてくれる人もいる。徳江さんの手紙のように、信じていてくれる人の存在は勇気をくれる。

耳をすませて、木や草や風や光や、自然の声を聞いてみようと思う。もちろん、身近な人の声なき声も。
えいこ

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