キミシマユウキ

怒りのキミシマユウキのレビュー・感想・評価

怒り(2016年製作の映画)
4.2
八王子夫婦殺人事件から1年。犯人は顔を変えどこかで今も隠れ住んでいる。東京、千葉、沖縄、3箇所で現れた身元不明の男は事件の容疑者なのか……

『悪人』『フラガール』『許されざる者』
!!李相日監督!!
によるミステリーサスペンス。
原作『悪人』も手がけた吉田修一。
渡辺謙×森山未來×松山ケンイチ×綾野剛×妻夫木聡×宮崎あおい×広瀬すず
な超豪華役者陣!!!
遂にTOHOシネマズ日劇にて鑑賞。


観終わった後のなんとも言えない重たい感情、エンドロール後もしばらく席から動けない不思議な余韻。
言葉で形容しづらいこの"何か"はまさに


怒り


愛する人を信じたい気持ちと疑ってしまう気持ち。
人間は簡単に人を信用することは出来るが1度疑い始めるとその疑念が頭から離れない。
そんな人間の"信じる心"に問いかける怪作。
東京、千葉、沖縄の各地で現れる謎の男とその周りの人間達の物語。
「誰が犯人なのか」
というミステリーを期待していくと若干ハードルを下げる必要があるが監督はそこに重点を置いていない気がした。
短期間で築かれる人間達の濃密な人間関係と生々しい心理描写をとても大事にしているのだ。
そして音楽を担当するのが最近『レヴェナント』でも話題になった坂本龍一なのだからより感情に訴えかけてくる。142分間を駆け抜ける。
そのため観終わった後の体力消耗は半端じゃないことだけは注意しておこう。

役者陣は文句ナシ
①千葉
傷ついた女性、愛子役に宮崎あおい。
ほぼスッピン!?ちょっとアホだけど真っ直ぐな女の子を熱演。
予告でも流れる号泣シーンの熱演は彼女のキャリアを1つステップアップさせただろう。撮影のために7㌔増やしたらしいがめちゃくちゃガリガリなので嫌味にしか聞こえない(笑)
突然現れた男と、田代君役に松山ケンイチ。
どこか怪しい、ただ真面目で勤労な青年、果たして彼の正体は…?
愛子の父親、洋平役に渡辺謙。
相変わらず素晴らしい。表情で語る役者。
顔がアップになるだけで伝えたいことを全て伝えることが出来る俳優もそういないだろう。娘を優しく見守る渋い親父を好演していた。

②沖縄
内地から越してきた少女、泉は広瀬すず。
「はいはい、話題性のアイドル要員ね」
と思っていた鑑賞前の自分にストレートを食らわせたい程の身体を張った演技。
彼女の短い経験の中でも最も過酷な撮影になったことは間違いない。思春期の複雑な少女を見事に演じていた。
泉の同級生タツヤ君役は佐々木宝。
なんと!彼は1200人の中からオーディションで勝ち抜いた期待の新人。
なんならすずちゃんよりも頑張っていたかもしれない。沖縄の純朴な少年にピッタリ。
無人島に住む謎の男、田中役に森山未來。
話してみると気さくな兄ちゃん、仕事もなんでも器用にこなすが、果たして彼の正体は…?

③東京
このパートが1番好きだった。
ゲイの優馬役に妻夫木聡。
かっこよすぎる。汗に光る黒い肌から泣き顔まで全てがかっこいい。いつから自分はこんなに妻夫木が好きになったんだろう。これはもしかして…♂
優馬の元に現れた男、直人役に綾野剛。
ミステリアスな役柄は彼にぴったり。彼なら養いたくなってしまう気持ちがわからなくもない…♂
住所不定無職、どこからきたかも教えてくれない。果たして彼の正体は…?
この2人は撮影時エピソードも物凄く好き。
期間中は2人で同棲をしていたそうだ。
そして撮影が終わる間近に何も告げずに綾野剛が部屋を後にして戻らなかったとか。最後の会話は
綾「コンビニ行くけど何かいる?」
妻「いや、大丈夫」
綾「わかった、じゃあ行ってくるね」
妻「気を付けてね」
で二度と帰らなかったらしい。
それだけで映画一本作れそうな話にヨダレが垂れた(笑)

他にも池脇千鶴、ピエール瀧、高畑充希、三浦貴大などそれぞれのエピソードの脇役も素晴らしく豪華だった。

観るには多少の覚悟と体力が必要な作品である事は間違いない。
ただエンドロール後の余韻に浸りたい方は是非劇場で。

ミステリサスペンス好き、李監督作品が好きな方、そして愛する人を信じたい方にはオススメの作品