つなぽてと

シン・ゴジラのつなぽてとのレビュー・感想・評価

シン・ゴジラ(2016年製作の映画)
4.8
日本怪獣映画完全復活です。庵野監督が見事にやってくれました。やられました。

正直キャッチコピーのせいで鑑賞直前まで押井守っぽい作風になるのかなというヤな予感も捨て切れませんでしたが、そこは特撮愛に溢れる庵野監督のこと。バッチリ初代路線を踏まえてやってくれました。これから観ようという方はまずその点についてご安心を。

2014のギャレゴジもそりゃ好きですが、言っちゃえばあれはゴジラの着ぐるみを着たガメラです。いやガメラも好きですけど。でも数多くあるよく出来た怪獣映画の一つに過ぎません。やっぱりゴジラはこの国でしか作れないと今回の映画で確信しました。それがゴジラ誕生の背景にあるというのは言うまでもありませんが、「大きな力による恐怖とそのアンチテーゼ」としてのゴジラを見たときに、今回と初代とのストーリー対比をしてみると個人的に面白いんじゃないかと思うので今回はそこらへんに焦点を当てつつ感想を投下していきたいと思います。


まずはゴジラのゴジラたる所以、つまり恐怖の元ネタという話になりますが、初代の太平洋戦争、二度の原爆投下に対して今回のシンゴジラは2011年の大震災という構図になると考えています。もちろんシンゴジラにも初代のモチーフは適用されると思いますが、やはり今でも爪痕の残る震災とそれに伴う原発事故は外せないテーマでしょう。ゴジラによって破壊された家屋や逃げ切れなかった人々の末路、地下に逃げ惑う都心の人々の細かい描写がイヤに既視感あるのが何よりの証拠と言えるかと。

観ようかどうか迷ってる人にも参考にして頂けるよう敢えてネタバレ指定はしないので多くは語りませんが、初代ゴジラが国内のみの力で解決を試みたのに対してシンゴジラでは他国との関係が密接に描かれています。現実に照らし合わせても米軍のトモダチ作戦に始まる震災への支援は記憶に新しい所でしょう。そこらへんにもモチーフの差が如実に表れているのが見て取れるかと。
もちろん諸外国に助力を乞うことは一概に良い結果をもたらすとは言えません。そこらへんもネタバレ防止である程度割愛させていただきますが、終盤の各国の想いが錯綜する中でのゴジラ撃退劇は現代日本人に強い勇気を与えるものだと思います。

ここでも初代を引き合いに出させていただきますが、初代では芹沢博士による決死の攻撃により計り知れない知的財産と東京湾の全ての生態系を犠牲にゴジラを撃滅しました。災厄を払い退け躍進のバネとするまでに、日本は大きすぎる犠牲を払ったのです。日本復興の象徴としてのゴジラを語るときにはあまり言及されてないような気がしますが。可哀想な芹沢博士と魚(個人の感想です)。
しかしシンゴジラは一味違いました。みたびネタバレ防止の為に多くは語りませんが…。映画を観た方々なら分かって頂けると思います。人々の決死の思いが結果的とは言え日本に、ひいては世界に何を残したか。こればかりは見てのお楽しみです。


むろん特撮部分においてもそりゃあもういっぱい語りたいことはありますがミリタリー関係さっぱりで適当なこと書くのもアレなんで割愛。でも凄かった。金も無いだろうによくぞあそこまでやった。いやそれとも予算のなさが無駄のないシャープで力強い映画を生むのでしょうか。まあ何にしても最後の庵野これがやりたかっただけだろ爆弾による攻撃は最高に痺れるので一見の価値あり。

色々書きましたが、邦画界のあり方、日本社会のあり方、震災のあとの暗い空気に呑まれちゃって世の中の色んなことになんとなく絶望している人にほんと是非見てほしいです。
ゴジラ観たことが無い若い方も。ハム太郎との同時上映で泣きを見た同世代の人も。ゴジラといえば怪獣プロレスだろ!ってお父さん世代も初代とVSへドラしか認めない俺みたいな偏屈者もみんなまとめて是非。力をくれます。すごい映画です。
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