スコット

グローリー/明日への行進のスコットのレビュー・感想・評価

グローリー/明日への行進(2014年製作の映画)
2.4
登場人物にとにかく台詞を喋らせ、ロクに心理描写もなく史実を列挙するだけでは、何も心に響くものは無い。その台詞も『黒人は白人と同様に人間である』というより『黒人は白人なんかより遥かに崇高な人種だ』というメッセージが前に出過ぎてるものばかりで、監督や製作者達の意図的な演出が手に取るように分かる。

例えばこの作品でキング牧師と敵対関係にあり、かなり横柄な人物として描かれていたジョンソン大統領は、実際にはキング牧師と協力関係にあった上に人種差別に否定的、公民権法の成立にもかなり前向きだったのにこの描写ということでその脚色を批判されている。これは確かにありえない。監督はこれを意図的に自らの解釈で脚色したとしていたが、こういうところがあざといと感じてしまう。

というか、全体的に押しつけがましいこんな造りの映画では、結局本当の意味で人間の良心に訴えかけることはできないのだ。何より大前提として、なぜ白人が黒人に対して差別をしたのかをハッキリと描かなければならなかったはず。

当時のアメリカでは過剰なまでの黒人差別が蔓延っており、今もなおその差別が続いているのは周知の事実だが、被害者たちの声だけを取り上げるのでは、決して何も変わらないだろう。

そして主演のD・オイェロウォは、キング牧師の役を演じるに相応しくなかったと思う。彼の表情からはキング牧師の苦悩や葛藤といったものがまるで見えない。彼がアカデミー賞主演男優賞にノミネートされなかったことが白人差別だと言われているが、単純に彼の演技に説得力が無かったに過ぎないと思う。

しかし、黒人に人権など無かった当時の悲惨さを徹底してリアルに表現することに成功しているし、映画史上初めてキング牧師を描いた作品を見事に作り上げた製作者達の心意気にも拍手を送りたい。

そして、アカデミー賞主題歌賞を受賞した「Glory」は鳥肌が立つほどの名曲。必聴だ。
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