OASIS

皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇のOASISのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

メキシコ政府とカルテルによる麻薬戦争の裏側に迫ったドキュメンタリー映画、

安全地帯であるエル・パソと危険地帯であるフアレスの国境で勤務する犯罪現場捜査官リチと、ナルココリード歌手のエドガーを中心に描く。
2007年の殺人事件の件数は320件、
毎年約2〜3000人もの人々が殺される最も危険な地域フアレス。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作「ボーダーライン」の舞台にもなった地域でもあり、その乾いた街並みは異様な不穏感と雰囲気をもたらし、外部の人間を強く拒むかのような隔絶した空気をひしひしと感じる。

メキシコカルテルものの作品は、そんな誰かに視線を常に感じているような気持ち悪さであったり、いつ襲われるか分からないというような緊迫感がこれ以上ないリアリティで眼前に迫って来るので、フィクション・ノンフィクションに関わらずヒヤヒヤさせられるものが多く実に映画的である。
決して「面白い」という感想で括られるようなものでは無いが、現在進行形の社会の暗部を体感出来るという社会的意味・意義がハッキリとしている。
その反面、組織自体の正体についてはハッキリとした輪郭が浮かび上がらず雲のように掴み所の無い気味悪さが漂っていたりするので、光と闇の差異が分かり易く描かれ全てが映画的であるので外れも少ないと言える。

エドガーの奥さんは超美人でスタイル抜群、派手で中々に贅沢な生活を送っており羨ましさを感じるが、リチは同僚を何人も殺されいつ自分の見に危険があるかわからない恐怖と戦いながら、終わるやも知れぬ麻薬戦争を見つめ続けるという哀しさが漂う対照的な2人の視点が光と闇の両面を強く際立たせていた。
「手にはAK-47 肩にバズーカ」という危なっかしい歌詞の曲を皆で大合唱したりと「ストレイト・アウタ・コンプトン」のN・W・Aと同様のアウトロー感は確かにアメリカ国民に受けが良さそうではある。
「私ギャングと付き合ってみたい!」という女子学生は、そこらにいる不良とちょっと悪戯心で遊んでみようかというような感覚なのだろうか。

14歳の子供が犯人であったり、子供が頭を撃ち抜かれて息耐えている強烈なシーンだったり「人間ジグソーパズル」の恐ろしさであったり。
映画の中で見たような光景が街中のいたる所で日常茶飯事に繰り広げられているという現実には、フィクション・ノンフィクションの境目が分からなくなってしまう。
映画の舞台となった麻薬戦争の中心地であるフアレスももう既に騒ぎの外にあるらしく、その移り変わりの激しさと終わりの見えない無力感に苛まれるのだった。
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