ふしん

はじまりへの旅のふしんのレビュー・感想・評価

はじまりへの旅(2016年製作の映画)
3.5
長年、森の中で自給自足の生活を続けていた大家族が、亡くなった母親の葬儀に出席するために、森から街に繰り出すロードムービー。

なんといっても、父親の教育方針のぶっ飛び具合が魅力的でした。
サバイバル技術を叩きこまれ、体力もアスリート並みで、いろんな書籍で思考力も鍛えて。
そんな「1人で」生きていくは何も困らなそうな子たちが、父親と一緒に街の中のアレコレにいちゃもんつけ、常識に反抗するのが楽しかったです。

読んでいる本も興味深くて。ジャレド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄」やドフトエフスキー「カラマーゾフの兄弟」等、反常識的な本ばかり。
その中でもナボコフ「ロリータ」の考察を娘に言わせるシーンが「この父親、どれだけスパルタなんだ!!」とニヤニヤしてしまいました。
※女の子からすると「ハンバートがクズだと思った!」でも良いような本なのに、文学作品として冷静に読んでるところに、好感が持てました。

ただ、父親の教育方針は「個の力」は確実に伸ばせても、集団の一員として生きていく力を伸ばすものではないのはありません。
むしろ、その強化に割く時間を排除しているが故に「個の力」を伸ばせているわけで。
そして、現在社会では集団の一員として生きる能力が高くないと、上手には生きられないわけで。
そのギャップが次第に浮き彫りになっていきます。
それを受けて、父親は自らの考えに葛藤するわけですが、この葛藤がとても印象深かったです。

色んなテーマ性を抱えた作品だと思いますが、根っこになっているのは妻を失い、そして子供を守ろうとする1人の父親の話。
他者の常識のおかしさを批判するのは上手くても、自分自身の常識には盲信的な、すごく人間臭い父親の話でした。
楽しかったです!!

[2017-81]
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