ケタミン

はじまりへの旅のケタミンのレビュー・感想・評価

はじまりへの旅(2016年製作の映画)
3.0
森を俯瞰する美しくも不穏な映像に始まり、一転して異様にワイルドなシーンから魅力的な設定・テーマへとつなげる冒頭の展開にはワクワクさせられた。が、次第に気分は尻つぼみに。一番過激なのがファーストシーンだった。その後の途中途中のエピソードがことごとくワクワクしてはがっかりの繰り返し。鍛錬の日々を送ってきたこれほど強靭な親子がなんでそんなに惨めな方向へ行っちゃうの?と。鍛錬の成果を示す見せ場はセリフに頼るだけだし。
世の常識に挑む気概は買うが、結局最後の結論は「妥協」。まあ現実的な帰着点なので納得はできるが、なんでそんなに小さくまとめちゃうかなあ。この設定とテーマなら、もっと深く掘り下げれば生と死の実存に肉薄したもっともっと斬新で突き抜けた作品にできたはず。

つまりこの映画は「常識に挑む」ことが最終目的であって、では何をもってして挑むのかという哲学的バックボーンがない。あるのは極めてアメリカ的なプラグマティズムのみ。ならばとことんプラグマティックにつき進めば思いもよらぬ展開になっただろうが、そこで安易なヒューマニズムに回帰するところがまたアメリカ的で、哲学のなさを露呈してる。だから常識に挑んだその先へ進めずに妥協に行き着くしかない。彼らの思想性を支えるのは一応チョムスキーということになっているが、それも名前を借りてるだけ感ありありで、薄っぺらな仏教観を持ち出してもみせるが、はっきり言って仏教を舐めとる。
映像美と役者が良かっただけに、脚本の詰めの甘さが歯がゆかった。良心的ではあるが、なんとも中途半端で残念な映画であった。
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