けーはち

ボーダーラインのけーはちのレビュー・感想・評価

ボーダーライン(2015年製作の映画)
3.9
原題『Sicario』──シカリオとは、エルサレムにおける征服者ローマ人に対する狂信的暗殺者に起源する言葉であり、メキシコでは殺し屋の事である。

メキシコ麻薬カルテルを潰すべく米国防総省の特殊部隊にリクルートされた女性捜査官(エミリー・ブラント)が掃討作戦の極秘任務につき、その過程で想像を絶する世界を目の当たりにする様子を描く!

★顔が判別できないグチャグチャの腐乱死体が壁の中からワンサカ出てくる、首切り死体が町にプランプランぶら下げられ、子供たちはバンバン銃声の轟く中でサッカーに明け暮れ、挙句の果てに道路で渋滞した車の中から銃撃戦が始まるわと、メキシコ国境付近の麻薬カルテルの縄張りになっている危険地帯で展開される狂乱の光景が容赦なく活写!

★狂気に正気では立ち向かえない。拷問、脅迫、法を超えた行為でカルテルの親分を確保、混乱させ消耗させるという政府のやることとはとても思えない狂った作戦が繰り広げられる。エミリー・ブラントは「私は兵士じゃない!」と言うが、麻薬捜査は「麻薬戦争」とも言われる戦い。百万回死んだトムの時には最強女戦士だった彼女もさすがに心をやられ、気を紛らせたくて付き合った男にはカルテルの手が回って殺されかける。警官は誰が買収されたか分からないから誰も信用できない。隠密作戦の時は「制服警官を見たら殺せ」と命じられる。完全にどうかしている。

★演出は抑えめで淡々として暗澹。終盤は暗視スコープを使って暗闇の中を襲撃に行くので物理的にも暗い。危険な国境付近は善と悪、職務と理念のボーダーラインを問われる地帯でもある。果たして原題「殺し屋」とは一体誰で、作戦の真意とは何なのか──本当の意味で〝闇〟を覗くことになる、ドロドロの社会派サスペンスだ。